この記事は、顧問弁護士をしてくださっている先生が書いてくれました。
こんにちは、弁護士の井垣孝之です。
大阪で弁護士をしながら、システムエンジニアをしたり研修講師をしたり会社経営したりしています。
毎年12月〜1月は新人弁護士が一斉に登録する時期ですよね。
おそらく個人事業主になるかと思いますが、個人事業主として必要なあまりお金の話を聞くことはないと思います。
そこでこのページでは、新人弁護士にとって必要なお金まわりの基礎知識をまとめて紹介しますね。
1. 個人事業主の基盤作り
(1)個人事業主としての各種届出
個人事業主になるときの必要最小限度の書類は以下の通りです。
(イソ弁として雇われつつ個人事件をする場合も含む)
- 個人事業主の開業届出(所轄の税務署:事業開始の日から1月以内)
- 所得税の青色申告承認申請書(同上:開業届出と同時に出せば良い)
提出する際は、受理印をもらうための控えを別途持っていきましょう。
所得税の青色申告承認申請書は必須ではありませんが、税務上の特典があるので出しておいたほうがいいですよ。
(2)事業用口座の作成
弁護士登録が完了して職印も作ったら、弁護士用の口座を作りに行きましょう。
弁護士は、「弁護士○○」という口座と「預かり口弁護士○○(預り口弁護士○○)」という口座の2つを作る必要があります。
作る銀行は、三井住友銀行がおすすめ。
なぜなら、事業用の口座であるにもかかわらず、ネットバンキングを無料で使えて便利だからです。
既に三井住友銀行に個人名義の口座を持っていても、事業用の口座は別途作れますよ。
ちなみに、ネットバンクだと依頼者がわかっていない場合があるため、余計なやり取りをしないためにもメガバンクにしておくのが無難です。
(3)事業用の財布とプライベート用の財布の区別
少なくとも銀行口座とクレジットカードは、事業用とプライベート用で区別しましょう。
そうしないと最初の確定申告でとても後悔することになりかねません。
財布は分けなくてもほぼ問題はないですが、分けている人もいる話も聞きます。
私は事業用の銀行口座は三井住友銀行(個人・事業用。ほぼ入金専用)とPayPay銀行(入出金用)です。
プライベート用は住信SBIネット銀行(コンビニでの入出金用)やみずほ銀行(カードの引き落とし専用)などを使っています。
クレジットカードは、事業用が楽天ゴールドカード、プライベートはP-one Wizにしていますよ。
現在だと、JALマイルを貯めたいなら「セゾンビジネスプラチナアメックス」が事業用におすすめで、プライベートなら楽天カードでいいかなと思います。
基本的にネットバンキングは各種手数料が安いので、お金を引き出す口座として持っておくのがおすすめです。
(4)経理・確定申告
経理は、まるごと税理士さんに任せるのでもいいですが、そこそこお金がかかるのと、自分の勉強のためにまずは自分でやってみることをおすすめします。
私は会計ソフトのfreeeを利用中です。
先ほど紹介した銀行はすべてfreeeと連携しているため、1月から連携させておけば次の確定申告時にとても楽になります。
仕訳の勘定科目などは、検索すればすぐ出てくるので調べましょう。
確定申告については、自信がなければ税理士さんに依頼してもいいですし、弁護士の確定申告はシンプルなので、自分でやってもいいと思います。
税理士さんに依頼すると、大体10万円くらいでやってくれますよ。
2. 個人事業主の税金対策
(1)税金の基礎知識
再来年の3月には、新人弁護士にとって初めての確定申告がやってきます。
ただし、3月の確定申告は前年の1月から12月までの間の課税所得に対してかかるので、その間で課税所得のコントロールをしておかないといけません。
そこで、まず個人事業主の税金についての基礎知識をまとめておきますね。
まず税金の計算をするときには、収入・必要経費・所得・所得控除・課税所得という概念が出てきます。
これらは、以下のような関係になっていますよ。
所得 - 所得控除 = 課税所得
基本的には課税所得に対して一定の税率で所得税・住民税の金額が決まります。
(課税所得が290万円を超えると、さらに個人事業税が5%かかります)
細かくは税額控除や繰越損失の控除などのその他控除などがありますが、とりあえずそれは置いておきます。
(2)節税対策の基本
基本的に弁護士は、デザイナーなどと同様に仕入れがほとんどない事業ですので、節税対策をしないと税金が高くなりがちです。
節税対策というのは、決して税金を減らすずるい対策ではなく、むしろ国税庁が推奨する方法ですよ。
その証拠に、税務署に行ったときは、かなり丁寧に節税対策のやり方を教えてくれました。
知らなければただ損をするだけなのですが、意外と弁護士でも節税対策をしていない人が周りに結構いるんですよね。
ここからは、個人事業主が使える王道の節税対策を紹介していきます。
節税の基本的な考え方
単純な考え方としては、課税所得を減らせば税金は減りますよ。
したがって、先ほどの計算式からすると、主な節税対策は以下の3種類になります。
1. 必要経費を増やす
- 経費にできるものを増やす(什器備品・書籍・交通費・家の家賃の一部・車代・飲食代等)
- 経営セーフティ共済に加入する(勘定科目は「保険料」として、所得控除ではなく経費になります。)
2. 所得控除を増やす
- 日本弁護士国民年金基金に加入する
- 小規模企業共済に加入する
- 確定拠出年金(iDeCo)に加入する
3. その他控除を増やす
- 青色申告特別控除
- 配偶者等に専従者給与を支払う
経営セーフティ共済について
経営セーフティ共済とは、本来は取引先が倒産した場合に必要となる緊急の資金を積み立てておき、積立金の10倍までのお金を借り入れられるようにするための制度です。
掛金全額が必要経費となり、40ヶ月以上積み立てるといつでも全額戻ってくる(収入になります)ので、課税を繰り延べる効果があります。
弁護士の場合、課税所得が290万円を超えると個人事業税がかかりますし、所得が増えると社会保険料も増えるので、経営セーフティ共済は使い勝手のいい方法ですよ。
逆に、個人事業税を払うほど所得があるのに経営セーフティ共済に入っておらず、高い国民年金・国民健康保険料を払っているのは非常にもったいないです。
また、40ヶ月というとちょうど独立するくらいの時期なので、独立資金として積み立てることもできます。
収入状況に応じて比較的柔軟に月額の引き落とし金額を変えられるのも特徴ですね。
ただし、経営セーフティ共済は事業開始後1年経過しないと加入できないので気をつけてください。
日本弁護士国民年金基金・小規模企業共済について
弁護士は、会社員と違ってほとんどの人は国民年金にしか加入していません。
そのため、老後の保障は非常に不安定です。
日本弁護士国民年金基金と小規模企業共済は、それぞれ弁護士・個人事業主用の老後の年金制度になります。
掛金は全額所得控除になるため、課税所得を減らすのに使えますよ。
所得が十分にあり、今税金を払うくらいであれば、老後の資金として積み立てておいたほうがいいですね。
ただし、日本弁護士国民年金基金は、厚生年金に加入している場合は入れません。
さいごに
今回は個人事業主、特に弁護士のお金周りについての基礎知識をまとめてみました。
節税対策をすると基本的にはお金が出ていくので、手元にお金が残らなくて不安になりますが、いざというときには経営セーフティ共済や小規模企業共済は解約してキャッシュを作ることができます。
自動的にお金が差し引かれる環境を作ってしまうことが資産形成の第一歩ですので、ぜひこの機会に資産形成の環境を構築してみましょう!