「生き残るため。売れるため。つくり続けるためにお金を使いたい」小説家・水谷健吾

小説家、という職業を選んだ人の、お金の話を聞いたことはありますか?

自分の作品で収入を得るための方法をリアルに紹介するブログ「小説で生計を立てるまで」や「ショートショート書庫」を運営する、小説家の水谷健吾さんにインタビューしました。

これまで水谷健吾さんは「comico」公式ノベル連載中の『文字生物( ^ω^ )育成日記 』、ヤングマガジンコミックスから出版中の『食糧人類』の原作を執筆しています。

これからの小説家として生きる方法、そして小説家としてのお金の使い方を伺いました。

水谷健吾さんインタビュー

水谷健吾さん

インタビュー日:2017年1月21日

『食糧人類』と『文字生物( ^ω^ )育成日記 』

── まず自己紹介をお願いします。

水谷健吾(以下、水谷):

出身は愛知県です。

今は千葉県のシェアハウスに住みながら、小説家として活動しています。

webのリスティング広告を運用する仕事もしながら生計を立てていて。

── どんな作品を書かれているんですか?

水谷:

現在の作品として、『食糧人類』と、『文字生物( ^ω^ )育成日記 』があります。

『食糧人類』はタイトル通りなんですけど、人類が食べ物になってしまうという物語です。

人間はこれまで豚や牛とか家畜を、機械的で狭いスペースに閉じ込めて管理してきた一面がありますね。

でも、そのことを僕らはピンときていない状態で生きています。

「じゃあ家畜と人間の立場が逆転されたらどうなるんだろう?」という着想から生まれた世界ですね。

人間が管理されて、美味しくなるように太り、よりたくさん子供を産めるように薬を打たれるような。

そして人間を食べようとしている食物連鎖の世界で一つ上の階層にいる生き物が、身のまわりにはじつはいる。

そういうことを伝える物語になっています。

── スタジオジブリの『千と千尋の神隠し』みたいですね。

水谷:

あぁ、そうですね!

お父さんとお母さんが豚になっちゃうシーンとかも、初めて見たときにめっちゃ怖いと思って、すごく印象的でした。

結構影響を受けてるんだなぁって、感じます。

『文字生物( ^ω^ )育成日記 』のほうは、スマホアプリの中で顔文字を育成させるっていう設定で物語を作っています。

育成するのは顔文字で、エサが「え」とか「あ」とか、ひらがなの文字なんですね。

それを食べて、文字生物がどんどん大きく育っていく。

たまたま命がある文字を発見して、それを育成できるようになった、そういう設定なんです。

僕たちが普段スマホで打っている文字って、動いていないだけで、じつは命があるんじゃないか?って疑問に思ったのがきっかけです。

僕らがタイピングしたらその瞬間に生まれる。

デリートしたらその瞬間に死んでいく。

生死がそんなに簡単におこなわれるものだとしたら、めっちゃ怖いなと思って。

── その発想はどこから生まれるんですか?

水谷:

最初は“顔文字が動いていたらおもしろいな”から始まったんです。

じゃあ動いていない文字はどうなんだろう? 普通のひらがなは、アルファベットだったら動くんだろうか?

みたいな疑問を膨らましていくと、たまに自分の中で「うわぁ、怖い」みたいな感覚に湧き上がるんです。

── 『文字生物( ^ω^ )育成日記 』に関しては、顔文字って若者にとって身近だし、作品としての文字量も少なくてとても新鮮でした。

水谷:

そうなんですよ。

── 着想がすごいなぁと思いました。「食べる」とか「生きる」という二つの作品のテーマを選んだのはどうしてですか?

水谷:

『文字生物( ^ω^ )育成日記 』のほうは、もともと「comico」さんで「夏のホラー大賞」みたいな企画があって、それに応募するためですね。

「comico」さんは吹き出し機能がすごく斬新というか、他社の投稿サイトと違うんですね。

募集要項のところに、comicoの吹き出し機能を使った斬新な企画をお待ちしています、みたいなことが書いてあって。

斬新ってなんだろう?と考えたときに、吹き出し機能の画面をそのままアプリ画面に見立てたらおもしろいかなぁと考えて応募して、結果的に連載をはじめさせてもらったんです。

── 枠があって、その中で考えるようになったんですね。

水谷:

そうです。

『食糧人類』は、当時ケータイ小説が流行った頃に書き出したんです。

そのときの流行りを調べたら、『恋空』とかの恋愛系と、『王様ゲーム』っていうパニック系というかグロい系で。

自分はあんまり恋愛系は書けないと思ったので、パニック系でタイトルのキャッチーさから考えました。

人間が食べられる物語だったら、自分が読みたいと思ったんです。

── 「名は体を表す」って言いますもんね。

水谷:

そうですね。

怖い系のショートショートを書いていてもそうなんですけど、人間が食べられちゃうオチが多いんですよね。

子供の頃から敏感で。

『千と千尋の神隠し』で人間が豚に変えられちゃうとか、映画を見たときも人間が食べられてしまうだとか、じつは飼育されていたとか。

そういうのは苦手なんですけど、すごく見たくなる。

子供の頃から敏感で、なんだかんだアンテナが立ってしまう存在でした。

たぶん、嫌々見ながら好きだったんでしょうね。

水谷健吾さん

そもそもどうして小説を書き始めたんですか?

── そもそも小説を書きはじめたのはいつからですか?

水谷:

中学生のときに道徳の授業があって、グループが6人くらいでよくある物語を読まされたんです。

ただその物語は、起承転結の「結」の部分だけが書かれていないんですよ。

そのあと結論がどうなったかをみんなで予想して話し合いましょう、という授業でした。

そこで僕はすごくめちゃくちゃな、良く言えば予想外なオチを書いたんです。

そうしたらそれを他のみんなが笑ってくれて。

なかには「小説家になれるよ!」って言ってくれた子までいました。

そのときに、“あ、小説家ってなんかいいかもなぁ“みたいな気持ちを、ふんわりと抱いた気がします。

── 成功体験になったんですね。

水谷:

その後は、高校生の頃ですね。

もう亡くなられていますが、星新一さんというショートショートを書いた作家さんがすごく好きで。

ショートショートは原稿用紙1枚分で終わるぐらいの物語なんですよ。

それでしっかり起承転結があるストーリーになっていて、すごいなあと。

でも、それぐらいだったら自分でも書ける気がすると思ったんです。

それで高校のとき、試しに書いてみました。

自分で読みなおすと恥ずかしくなりましたけど(笑)。

── 大学時代はどんな過ごし方をしていましたか? ブログの自己紹介のページでは、「歪んだ青春時代の反動もあり大学1,2年生を堕落的に過ごす。」と一文書かれてますが、これはどういうことでしょうか?

水谷:

「ドラゴン桜」が放送された時期に受験真っ只中だったので、影響されて高校時代は勉強が正義だと思っていて。青春らしいことをしていなかったんです。

ファミレスやマクドナルドで友だちとずっと喋っているなら、俺は帰って勉強するわっていうスタンスでした。

大学では最低限のことさえやっていればある程度単位をもらえたので、とくに高い目標もなく・・・。

みんなでファミレスに行ってグダグダ喋るとか、みんなでお酒を飲んで馬鹿騒ぎするようなことをはじめて経験しました。

これは楽しい!って舞い上がっていた(笑)。

── 結構散財するんじゃないですか?

水谷:

そうですね・・・。

1、2年生の頃は、稼いだお金は全て遊びに使っていました。

── じゃあ結構……ダメなやつみたいな感じでした?(笑)

水谷:

典型的なダメなやつでしたね(笑)。

でも、そんなに忙しい学部でもなく時間を持て余していたので、この時間はもったいないなと思いはじめちゃって、小説を書くことを再開したんです。

当時は世間的にもケータイ小説が盛り上がってきていた時期で、ケータイで書くんだったら楽にできるかなぁと。

── またちょこちょこと活動をはじめたと。

水谷:

そうです。

大学の行き帰りが合わせて1時間ぐらいだったんですけど、電車の中で毎日書いていたら、意外に続けられたりして。

── 毎日書いてたんですか!?

水谷:

はい、まあやることもなかったから(笑)。

ちょっとずつ更新するように書き続けたら長めの作品も完成して、それが少し自信になったかな。

── それは、どこかで見れるんですか?

水谷:

さっきお話した『食糧人類』がそれです。

── えっ! 出版化された原作は大学時代に書いたんですか?

水谷:

そうです。小説投稿サイトに投稿して2年後ぐらいに編集の方から「コミカライズを検討しているんですけど、どうですか?」みたいな連絡が来ました。

── へえー!

水谷:

どうぞどうぞという感じで。

水谷健吾さん

小説家として生計を立てるまで

水谷:

それからは大学を卒業して、結果的にウェブのリスティング広告の運用とかの仕事をすることになりました。

自分でブログを書いたり、サイトを作ったりして、数年前まで収入はいろんなところから得たいという気持ちが強かったんです。

小説は趣味で、いつか仕事になればいいかなぁぐらいな感じで。

で、ちょうど26歳になったときに四捨五入したら30歳だと思うと、結構ズシンと来るものがありました。

これから本当に自分が成し遂げたいことってなんだろうなぁと。

ウェブの仕事で結構な額のお金をもらったとして、その上で自分が何をやりたいのかなと考えたんです。

結論は小説のほうが大事だと思えた。

僕の意識の中での優先順位が、そこで逆転したんです。

── 小説家としてのブログ名が「小説で生計を立てるまで」となっていますよね。

水谷:

作家で、お金のことをとやかくいうのって、格好わるいと思っていた時期もあります。

それこそアフィリエイトをやっていることも言わなかった。むしろいい作品が作りたいことを語る記事がメインだったんですけど(笑)。

でも本格的に、ブログで稼ぎたいことを押し出したのも、ここ半年ぐらいですかね。

── ご自身の中でなにか変化があったのですか?

水谷:

小説家として「これから生きていこう」って決めたときに、どうあるべきか考えたんです。

小説家の人ってやっぱり、自分も知らず知らずのうちにそうなってたんですけど、お金のことを言わないようにしている人が多いんです。

クリエイターさん全般かもしれないですけど。

── 作家さんってそういう感じがしますよね。

水谷:

小説家の方で、そもそもブログを書いてる方っていなかったりして。

── なかなかいないですよね。

水谷:

もしブログを書いている小説家がいても、「今日こういう打ち合わせがありました」とか、ほんとにTwitterで呟くようなことの延長線上にあることを書く人しかいなくって。

逆に、お金のことも書く小説家になれれば、自分にできることがあるんじゃないかなと。

僕は小説家だけどアフィリエイトをやって収入を得ています。

これからの小説家としてそういう生き方をすれば、より小説家として長く生きられることを示していけたらおもしろいんじゃないかと思っています。

── 今のご活動は作品制作とブログ、他サイトの運営になるんですよね? ご活動の優先順位はあるんでしょうか。

水谷:

僕の場合は、どちらかというとブログを大事にしています。

もちろん「comico」さんとか「エブリスタ」さんとか、媒体でお金いただいて書かせてもらっているので、全力で臨んでいます。

けどそういうのって全部、他社さんの媒体での活動になっちゃう。

ブログは僕が持っている独立したメディアという意味で大事にしています。

はてなブログのほうはブロガー的な記事が多くて、ライブドアブログのほうでショートショートだけを連載しています。

── なるほど。現状ブログやアフィリエイトサイトの運営と他者媒体での執筆は、どちらの収入が多いんですか?

水谷:

ブログのほうが多いですね。

大学生のときからあちこちにブログとか小さなウェブサイトを作っていたので、そこからいろいろと細かいお金が入ってくるのを合わせてです。

── すごいですね。

水谷:

いや、全然。

以前取材されているやぎぺー(八木仁平)さんは自分のブログだけでガツンと収入を得ているので(笑)、すごいと思います。

作品を届けるためにお金を使いたい

── お金を得ること、つまり収入についてはどんな意識でいらっしゃいますか?

水谷:

少し前までは、お金は最低限あればいいと思っていたほうで。

最悪のケースは実家に帰って自分がやりたいことでのんびり暮らせたらいいかなと思っていたくらいです。

でも今は、しっかりお金を得たい。

というのも物語を書いてお金いただく経験をしっかりできたのが、ここ1年ぐらいの話なんですね。

『食糧人類』もコミカライズされてはいたんですけど、印税の話がまとまってきたのがここ最近だったりするので。

お金というのは読者の方が、自分の作品に対して払ってくれたお金です。

それが大きければ大きいほど、いろんな人を喜ばせたというひとつの指標になるだろうなと。

── 今は得たお金をどう使っていますか?

水谷:

作家としてインプットするために、本やマンガ、映画には月に3万から5万くらい使っています。

逆に僕は洋服とか全然買わないんです。

── 今後は、お金をどう使っていきたいでしょうか。

水谷:

より多くの人たちに作品を知ってほしいので、自分の作品を広めるために使っていきたいです。

水谷健吾さん

── 新しい作品をつくりたい、宣伝をしていきたいとか。

水谷:

そうですね。

3月くらいから、100日で1,000個のショートショートを作るような企画をやってみようと思っています。

ただ100日で1,000個のショートショートを作ると、1日10個作る計算です。

僕が今やっているブログとかのサイトの更新がほぼできなくなるんですよね。

当然収入が減るので、生活費としての3ヶ月分が痛い・・・。

その3ヶ月間たとえ収入がなくても死にはしないと思うんですけど、今はクラウドファンディングで支援を募ることも考えています。

たとえば1,000個のショートショートは無料開放したり、原作をマンガにする権利をリターンとして提供したりとかできたらと。

── おもしろいですね。

水谷:

僕は自分の作品に対してそんなに執着はなくて、どう料理していただいても構いませんよという感覚があります。

それ以上に、広めてほしいという想いがある。

だから今は作画できる人を探しているんです。

── 作画というのは、マンガにしたいということですか? それとも絵本?

水谷:

マンガにしたいですね。

── それはどうして?

水谷:

やっぱ絵はすごいなって思いますね。

同じ物語があるとしたら、僕自身もマンガを手に取っちゃうんです。

小説って読むまでに結構エネルギーが必要です。

── 逆にマンガだとさくっと読めますよね。

水谷:

そうそう。より多くの人たちに届けたいので、マンガにしたいんです。

今は力を貸してくれる人を募集中なんですが、そのためには、僕が実力と認知度をもっと養いたいなと思っています。

【編集後記】インタビューした感想

これからの小説家としての、ひとつの生き方を感じられるインタビューでした。

お金と向き合うことで、小説家として息長く、作品を作り続けることができる。

そして得たお金でさらに作品のための活動に使いたい。
その想いに、共感してくれる方がいらっしゃるのではないかと思います。

水谷さん、ありがとうございました!
今後もご活動を応援しています。

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この記事を書いた人

編集者/フォトグラファー。ベルリン在住、茨城県龍ケ崎市出身。「灯台もと暮らし」をはじめ、暮らしをテーマに活動しています。