“お金の価値って、たぶん速効性”『いいね』を深く速くして、たくさんの人に良さを伝えたい|株式会社MIKKE代表・井上拓美

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「お金の価値って、たぶん速効性」

お金の価値についてこんなふうに話すのは、株式会社MIKKEの代表・井上拓美(いのうえたくみ)さん。

MIKKEは、クリエイター向けの無料の衣食住空間「Chat Base」や誰でも店主になれるコーヒースタンド「C STAND」、贈り物専用本屋「Hotaru」を事業として展開するほか、他企業のブランディングやプロデュースも手がけています。

代表の拓美さんは、現在24歳。MIKKEも含め、これまで3度の起業を経験してきました。

株式会社MIKKE代表・井上拓美さん

最初の起業は、高校を卒業してすぐのこと。
父親から600万円借りて札幌で飲食店を創業したのち、2年後に上京して1,300万円の出資を受け、ITベンチャーを立ち上げます。

その後サラリーマンに転職したけれど、様々な矛盾や葛藤に悩み蕁麻疹が出てひと月で辞職。

のちに友人と一緒に起業し、今年創業2年目を迎えたのが現在の会社なのだそう。

怒涛の10代後半、20代前半を送ってきた拓美さんは、人生の岐路に立たされるたびにいつも、どう生きるべきか──つまり、どうお金を稼ぎ、使うべきかについて考えてきました。

そんな拓美さんが今考えるお金の価値が、“速効性”。一体どのような経験や思考の変遷を経て、このような答えに行き着いたのだろう?ご本人にお話を伺ってみました。

井上拓美さんインタビュー

株式会社MIKKE代表・井上拓美さん
インタビューした日:2018年12月12日(水)

600万円借りた1度目の起業、1300万円の出資を受けた2度目の起業

── いちばん最初の起業のきっかけについて教えてください。

拓美:
育ちは札幌なんですけど、大学受験に失敗して高校卒業後は何もしていなかったんです。やりたいこともなかったから仕事もしたくないし、フリーターもそのときは選ぼうとは思わなくて、でもお金を稼がないといけない。そんなときに思いついたのが、お金を借りること。

人間って不思議で、どうにかして生きないと、と思うと何かしらの方法でその手段を得ようとする。それで僕はまず最初に、銀行に通いつめたんです。

最初は地銀に行って、でも全く相手にされなくて。だけど通いつめている間に担当者と仲良くなって、国民政策金融公庫を紹介してもらいました。

── 国民政策金融公庫?

拓美:
創業支援みたいなことをしてくれる国がやっている金融機関です。

結論から言うと、そこでも借りられませんでした。何かを始める人のためにお金を貸すところだったので、飲食でアルバイト経験があったというのもあって、勢いで「カフェやります」と言い、担当の人に教わりながら、事業計画書を作ったんですよね。

── そこまでやっても借りられなかったんですね・・・。

拓美:
だけどそのときは借りられないことにへこむより、自分が事業計画書を作れたことに感動しちゃって。これを理解できない人の方がおかしい、と思って、それを手に地元の焼肉屋の社長さんに会いに行ったりもしたんですけど、やっぱり借りれなくて。

最終的に、両親が離婚して以来会っていなかった父に6年ぶりに再会して、600万円借りました。そのお金で札幌に飲食店を立ち上げたのが19歳のとき。

── はじめての起業はどうでしたか?

拓美:
とりあえず600万円稼がないといけないから、死に物狂いで勉強しました。本を読んだり、ネットで調べたりしながら経営について勉強して、学んだことはそのままコピーで実践。

そうしたら、事業ってやったらその分返ってくるということに気づき、売り上げも1年半で黒字になって勉強が楽しくなったんです。

成果が出始めた頃からかな、勉強も結果を出すだけのものだけじゃなくて、いろんな起業家の考え方に触れたいなと思うようになって。仕込みの時間が暇だったから、YouTubeで有名なIT起業家の動画とか見るようになったんです。

そういう部分から影響を受けて、もっと飲食じゃなくて「こんなことやりたいな」という欲求がいろいろと出てくるようになりました。

飲食を始めて2年くらい経とうとしているときには、もうお店が回るようになっていたから、ちょっとずつ札幌のいろんなお店やイベントに顔を出すようになったんです。

── 飲食からもっと外の世界へと。

拓美:
そうやって飲食以外の世界に興味を持ち始めたタイミングで、SNSも本格的に始めたんですよね。それでたまたまTwitterでフォローし合っている、東京で会社をやっている北海道出身の人から連絡がきたんです。

── どんな内容だったんですか?

拓美:
とある東証一部上場企業のこの会社のビジコンに参加してみないか、というお誘いの連絡でした。

そのときの自分の感覚としては、「交通費がかからないで東京に行けるんだ、ラッキー」くらいの気持ちだったんです。けれどそのビジコンで、まさかの自分が発案した案が優勝しちゃって。

── すごい!

拓美:
僕以外の同じチームのメンバーが本当に優秀だったんですよ。だって僕、パワーポイントの使い方もわからなかったんですから(笑)。

だけどたまたま発案したのが自分だったということで、次の日にオフィスに行ったら「どうする?出資受ける?」と言われて、そのまま上京し、1,300万円の出資を受けて、ビジコンの案で2度目の起業しました。

株式会社MIKKE代表・井上拓美さん

「なぜ」を追求していった結果、今いちばん最速でかつ最適な形の提案をするのが起業家の力

── 2度目の起業ではどんな会社を立ち上げたのですか?

拓美:
立ち上げたのは、外国人旅行者と英語が堪能な日本人をマッチさせて、訪日外国人向けにツアーや体験を提供するインバウンド事業をやる会社。

その会社は、サービス自体はうまくいっていたんだけど、1年くらいで畳んじゃったんです。

── それはどんな理由から?

拓美:
簡単に言ってしまうと、出資を受けてそれに見合った数字を追いかけるということをやめようと思ったんです。

自社事業だと小さくやったり、スケーラビリティを意識しなくてもよかったかもしれないけど、出資を受けて会社をやるとなるとそうじゃない。

まず、最初に狙うべき市場があって、規模がある。もちろんそれはひとつの形なんだけど、自分の会社がその姿勢でやるのかとなったときに、僕はモチベーションが保てなかったんですよね。

── 最初にお金の契約があることが、心労だったと。

拓美:
それがきっかけで、今MIKKEは資金調達を一切していないんです。また、プロジェクトにもできるだけお金をかけないようにしているのですが、それもお金が先にあるという考え方にならないように。

お金が先にあると、いくらお金がかかったからとか、これだけのお金を回収しながらやらないといけないということを考えながら、モノやサービスを作らないといけない。

それって、もともと大事にしていたピュアな想いを無視ししてしまうことにつながるんじゃないかと思っています。

だけど今のMIKKEの選択も、そもそも自分が出資を受けた経験があったからできた選択なので、やっぱり出資を受けられて良かったなぁと思います。

── 会社を畳んでからは一度、会社員になられるのですよね。

拓美:
そう、ひと月だけ会社員に(笑)。

だけど短い会社員生活の中でも気づいたことがあって。それは、会社がやりたいと謳っている事業と、実際にやっていることがズレていることって結構あるということ。

株式会社MIKKE代表・井上拓美さん

── どんなふうにズレてしまうんですか?

拓美:
たとえばなんですけど、「アフリカの子どもたちが教育を受ける機会が少ないから、アフリカに学校をつくる」という事業があったとして。

けれどそもそも、アフリカの子どもたちの教育機会をつくるために、本当にアフリカに学校をつくることが正しいのか? そもそもアフリカの子どもたちが教育を受けるってどういうことだろう?

そこの「なぜ」を追求していった結果、今いちばん最速でかつ最適な形の提案をするのが起業家の力。

だけど世の中って基本的に先に市場があったり、人の固定観念がある結果、先に自分たちができることから考えることが始まっちゃって、できることからそのひとたちに届けることを考えてしまうんですよね。

── なるほど。たしかに私も、自分たちが当たり前に享受している学校こそ、提供すべき環境だと思い込んでしまっていたかもしれません。

拓美:
起業家が本当に考えるべきことは、ソリューションありきじゃなくて、もう一歩前段階から本当は何が必要なのか、本質的な選択肢を選ぶことだと思ったんです。

だけど世の中の多くの起業ってそれがやりたくてもできないジレンマがあって。なぜかというと、たとえば人をたくさん雇用していたら、お金がかかる。

そうすると、お金をたくさん集めること前提でなにかを作らないといけないから、ある程度の市場規模がないといけない。そんなときにさっきのアフリカの例だと、学校ってすごくわかりやすいじゃないですか。

── そうですね、「学校なら」と共感して支援する人も多そうです。

拓美:
そう。「でも、本当に学校なの?」という部分は考えられていない。

僕が会社員をやっていて気づいたのは、企業が何か事業をやるにもいろんな条件がありすぎて、本質的な選択を選べないことが多かったりするんだ、ということでした。

株式会社MIKKE代表・井上拓美さん

Chat BaseはMIKKEを可視化してくれた

拓美:
その数ヶ月後に、友人と一緒に立ち上げたのがMIKKE。なにをやるかっていうところは決まっていなかった頃に、決まっていたことはいくつかあって。

── 事業じゃない部分で決まりごとがあったんですね。

拓美:
好きな人と仕事しよう、絶対にストレスを感じない環境を作ろう、違和感を感じたらやめよう。この3つを決めていました。それでMIKKEは最初、デザイン会社としてスタートしたんです。

── どうしてデザイン会社にしたのですか?

拓美:
それは単純に、そのとき自分がデザイン系の本を読んでいて、デザインの奥深さに感動していたからですね(笑)。

デザイン会社と名乗ってからは当たり前のようにデザインの仕事がくるんですよ。でもうちにはデザイナーがいなくて。

「どうしようかな?」ってなったときに、思いつくのが外注すること。でも「好きな人と仕事する」っていうところを守りたかったから、友だちを作ろうと思ったんです。

それで最初は人の紹介とかでエンジニアやコピーライターの人たちと繋がっていって、仲良くなったら一緒にチームを組んで仕事をして、みたいなことをやっていたんです。

そうしているうちに10人、20人と仲良い友だちが増えて、slackはどこまでがMIKKEの人かわからないくらい混沌としていたんだけど、その人たちが好きだから交流していて。

そのとき、自分たちは自分たちの会社の形や働き方がすごくおもしろいし新しいという自覚があったんです。そしてそれを外の人に伝えたい、という気持ちもありました。けれどそれをうまく伝えられないことが辛かった。

── 今は、その気持ちはどうですか?

拓美:
MIKKEは、24時間365日無料で利用できるコワーキングスペース「Chat Base」を展開しているのですけど。

そのChat Baseを作ったことで、はじめて自分たちの存在とか考えていることが伝わって、すごく満たされた感覚になりました。

Chat Baseを作る前、「自分たちって誰のために、何ができるんだろうね」ということを考えていて。

そんなときに、BnAというアートホテルを運営する会社から「新しくホテルを作る予定なんだけど、一階を使う?」と声をかけてもらったんです。

そこでまた、自分たちはその場所を使って何ができるんだろう?ということを考えました。

── MIKKEができることは、なんだと思われたのですか?

拓美:
前提として、「やっぱり僕らは知らない人のために何かはできないね」となったんです。

けれど、知っている人のためなら何かできるかもしれないと思って、今MIKKEのslackに集まる人たちの共通して欲しいものを考えた。

それが、最低限の生活の保証、つまりベーシックインカムだったんです。

MIKKEは社員がいないから、チームのみんなはクライアントの仕事を受けているんだけど、究極的にやりたいことを突き詰めていくとクライアントワークじゃなくて自分たちがやりたいことをそれぞれやりたいっていう欲求があったんです。

でもそれをやるためには時間の投資が必要。時間の投資が必要ってことは、生きていくためのお金もまた必要になってくるんですよね。

その生きていくために必要なお金が何に使われているのか考えたら、それは最低限の生活を保証することに使われているわけです。

そこで、僕らはお金を提供するベーシックインカムじゃなくて、お金に代わって生活を保証するベーシックインカムをslackにいる10人20人のクリエイターに提供したいなと思った。

それで24時間365時間出入りできる、寝れてシャワーが浴びれてご飯がタダで食べられる場所をつくろうということになり、生まれたのがChat Base。

株式会社MIKKE代表・井上拓美さん

お金の価値は速効性。たくさんの人が『いいね』を押す感覚でお金を払えたら

── 今、Chat Baseにはどのくらいの人が出入りしているんですか?

拓美:
月500人くらいですかね。

── 最初、10人から20人に向けてつくった場所が今はもっとたくさんの人に利用されている。

拓美:
今までは十数人のクローズドな集団だったけど、Chat Baseができてからはもっとオープンにしていこう、僕らも関わる人を増やそうって気持ちがどんどん大きくなっていって。

MIKKEはまだまだ内輪感があるようにも見られるんだけど、自分たちの考えていることは真逆で、今は誰でも「自分がMIKKEです」って言ってくれたら、「そう、あなたはMIKKEです」っていうスタンスなんですよね。

いろんな人たちを見てきたし、関わってきたから、もっとたくさんの人たちを対象とした何かをやりたいねってなっているのが、今です。もっとたくさんの人と、となったときに、やっぱり自分はお金と向き合わないといけないと思って。

── 今まで以上に。

拓美:
MIKKEを立ち上げてから、お金を稼ぐっていうところからはしばらく遠ざかっていた気がするんですよね。

自分は、父親もそうなんですけど、お金になることよりも、まだ世の中に知られていない仲がいい人たちのおもしろいところを知って、その人がどうすればいいのかをひたすら一緒に考えることが幸せ。

まだ世の中に知られていないものでも、絶対にいいものをつくっていたり、面白い考え方を持っている人っているじゃないですか。それが理解されたときに、すごく幸福を感じます。

僕はお金を稼ぐこと自体にそこまで幸福は感じないんだけど、でも最近は、やっぱりお金を稼ごうと思って。

── そう思ったのは、何がきっかけだったんですか?

拓美:
お金を稼ぎたいのは、『いいね』を深く速くしたいと思ったから。

── 『いいね』を深く速く。

拓美:
今までは関わる人たちが10人20人だったから、お金じゃない価値交換がたくさんできたんです。それぞれに合わせたコミュニケーションを重ねるとか、感謝の気持ちを言葉で伝えるとか。

だけどMIKKEに関わる人たちや自分と仲が良い友だちが増えた結果、ひとりに割ける時間が短くなってきた。

だけど、その人の考えていることや作品に価値を感じていないわけではなくて、良いと思っていることをちゃんと伝えたいし、その人たちがちゃんと心を開ける環境を作りたいと思っていて。

そうなったときに、その人のことを一番速くかつ深く肯定する方法がお金を払うことだと気づいたんです。その人がクリエイターだったら作品を買うとか、クラウドファンディングをやっていたら支援するとか。

だから自分が思うお金の価値って、たぶん速効性。『いいね』を深くかつ高速にできることと。そして高速だから、いろんな人にできることだと思います。

── たしかにいろんな人にできる。

拓美:
もともと人間同士が価値交換をしあっていたけど、社会が複雑になった結果、よりシンプルに価値交換をするために生まれたのがお金だと思うんです。

── お金の登場で、値段でものの価値が決まったりとか。たしかに、お金は価値を知るのに楽ですよね。

拓美:
そうそう。だからお金の価値は速効性っていうのはあたらしい考え方ではなくて、本来的なものだと思っています。

今は、もっとたくさんの人たちが、ノールックで費用対効果とか考えず、いいなと思ったらそれに『いいね』を押すくらいの感覚でお金を払えるようになれたらおもしろいな、ということを考えているんです。

株式会社MIKKE代表・井上拓美さん

インタビューした感想

「仲のいい友だちのことをひたすら考えることが好き。」とインタビューでお話ししてくれた拓美さん。

筆者は拓美さんのように会社をやっているわけではないのですが、編集者として2年間活動していく中で「この人のことを本気で考えたい」と思う人たちに出会ってきたように振り返ります。

そんなときに自分が大切にすべきことはなんだろう?と、アフリカに必要なのは学校なのかというお話や、Chat Baseができた背景を伺って考えました。

きっと大切なのは、自分が今思い浮かべていることがその人にとって本当に本質的な課題解決となるのかを考えること。いろいろな条件や制約をとっぱらって、できるかできないかは二の次に一緒にできることを探ってみること。形にできなくても想いだけでも表明してみせること。

小さくてもそういう姿勢でいることが、多くの助けにはならなくても、せめてその人自身の何か、支えにはなれるのではないかと思いました。

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この記事を書いた人

小山内 彩希

編集者・ライター。1995年生まれ、秋田県能代市出身。株式会社Wasei「灯台もと暮らし」編集部。野球しながら植物を育てています。

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