「職業・インフルエンサー」を続けられる理由とは? 久保居亜由美さん

ブログ歴は15年。インスタグラム2万8000フォロワー、ツイッター2万7000フォロワー。

久保居亜由美(くぼい あゆみ)さんは、その発信力を武器に、企業から依頼を受けて商品やサービスをPRするインフルエンサーのひとりです。

インスタグラムを覗いてみると、完璧にテーブルコーディネートされたお料理の数々、旅行先で泊まった素敵な宿、娘さんたちと訪れたキッズ向けのイベントなどの情報がキラキラとあふれています。ま、まぶしい・・・!

「お料理や旅行を楽しみ、生活のひとコマを切り取って発信することが仕事になるなんて、うらやましい・・・」という思いに駆られたわたしは、インフルエンサーのお仕事の舞台裏について聞いてみることにしました。

しかし、そこで飛び出したのは、想像していたようなキラキラした日常ではなく、発信することに対する責任と配慮を感じる数々のエピソードでした。

ブログやSNSなど複数のメディアを使い分け、有益な情報を提供し続ける努力。多くの発信者の中から自分を選んでもらうために日々勉強。そして、発信したことでまわりに迷惑をかけないようにする気づかい。

結論を先に言ってしまいましょう。インフルエンサーは楽じゃない、です。

「好きじゃないと、続かない」と久保居さんが語る、発信を仕事にしていく覚悟とは?

久保居亜由美さんインタビュー

フリーになったきっかけは、保育園に入れなかったから

── 今のお仕事ではどんなことをしているのか教えてください。

久保居さん:
企業から依頼を受けて、商品をブログやSNSで紹介する仕事をしています。

今、特に多いジャンルはフード、コスメ、旅行、あとは娘がふたりいるのでキッズや子育て関連です。

ライターや読者モデルとしてお仕事をすることもありますし、フード系のお仕事ではフードスタイリングやレシピ開発もしています。

幅広く活動しているので、ひと言で説明するなら「インフルエンサー業」になってしまうんでしょうね・・・。

── なんでそんなに浮かない顔で言うんですか!?

久保居さん:
インフルエンサーって言葉があまり好きではなくて。自分で名乗るものじゃないですよね。でも、やっている仕事を簡単に説明するとインフルエンサーです(笑)。

── なるほど、理解しました(笑)。今のお仕事をされるまでの経緯について聞かせてください。

久保居さん:
わたし、ブログを大学生のころから始めて、もう15年書いてるんです。

── 15年⁉︎

久保居さん:
当時はまだブログもなくてウェブ日記って呼ばれるサービスでした。その少しあとにウェブログが出始めて・・・、ちょうどはあちゅうさんが『恋の悪あが記』でブログから本を出版して注目された時代です。

── わたしも久保居さんと同い年なので、よく覚えています。

久保居さん:
その頃、わたしは自分の就職活動についてブログに書いていました。あとはmixiが出てきて流行していたのでSNSの楽しさにも目覚めて。

── もともと文章を書くことに興味があったんですか?

久保居さん:
写真を撮るのも好きだし、文章を書くのも好きでした。情報発信には興味があったけど、当時はまだそういうツールがなかったんです。

だからブログとかSNSのようなサービスが出てきたときには、すぐに飛びつきました。

── アンテナが高かったんですね。

久保居さん:
もともと新しいもの好きな性格っていうのもあると思います。

就職も広告業界に興味があって、内定もいただいたんですが、結局いちばん条件のよかった大手の金融会社に入社し、営業職に就きました。

── そこは堅実路線を選ぶぞ、と。

久保居さん:
そうですね。ただ、入社してからもずっとブログは書き続けていたんです。もちろん会社のことは書けないので、普段食べたご飯とか、好きなコスメとか旅行のことを。

ちょうどアメーバの芸能人ブログが出始めて話題になっていた頃です。ブログを見た企業広報の方からから声がかかって、商品のモニターを頼まれる機会も出てきました。

── それは費用をもらって、ですか?

久保居さん:
当時はお金じゃなくて、商品を提供してもらっていました。あとは旅行とか、ヘリコプターに乗るなどの貴重な体験をさせてもらったりとか。

一般のブロガーを起用したPRがまだ始まったばかりの頃だったんですね。わたしも本業があったので、趣味として楽しんでやっていました。

── ブログで発信していたことで、さらにネタになるような体験をさせてもらえる機会が増えていったってことですね。

久保居さん:
そうなんです。撮影などで出かけた場所でつながりができて、そこで出会った方にまた別のお仕事に呼んでもらえたりして、輪が広がっていきました。

当時は実名で顔を出して発信している人もまだ少なかったので。早くから始めていてラッキーでしたね。

── 会社を辞めてフリーになったのは、これを仕事にできる!と思ったからですか?

久保居さん:
いえ、違うんです。28歳のときに結婚して、30歳で長女を出産したんですが、2年間、保育園に入れなかったことがきっかけです。

育児休暇を延長してもらっていたのですが、保育園に入れるのを待っているうちにふたり目も欲しいタイミングが来てしまって・・・。

うちは夫が自営業というのがあったから難しかったのかもしれないです。

── ちょうど「保育園落ちた…」のワードが炎上していた頃ですね。

久保居さん:
「働けない」「保育園ない」と結論を迫られたときに、フリーになったほうが家族との時間も増えるし、自分の精神衛生的にもいいかなと思ったんです。

時代が進んで、最初は物品提供だったPRに取材費が出るものも増えてきました。本業にして振り切れば、収入が見えたというのもあります。

── 積極的に独立したというわけではなかったんですね。

久保居さん:
認可の保育園にすんなり入れていたら、まだ会社員を続けていたと思います。大手企業で、収入も福利厚生も安定していたので。

でも、育休がこれ以上延びてしまうのも申し訳ないという気持ちもあったので、腹をくくりました。

だれでもできる仕事だからこそ「目に見える信頼」が大切

── 状況に迫られたとはいえ、ブログを続けていたからこそ独立を考えられたってことですよね。

久保居さん:
そうですね。まさかこれが仕事になるとは思っていませんでした。

── 金融業界の営業職ってすっごく忙しかったと思うんですよ。どうやってブログ書く時間をつくってたんですか?

久保居さん:
ブログやSNSを投稿することがリフレッシュになっていたからですね。ブログを書くためにがんばって時間をつくったという意識もないです。

あとは、会社の人とはまた違う人間関係がそこにあったから。たとえば仕事で失敗して落ち込んでいても、違うジャンルの人たちと会うことでリセットできていました。

── たしかに、書くことが義務になっていたらしんどくて続かなそうです。

久保居さん:
そう、ブログでもSNSでも毎日何かしらの発信はしているので、好きじゃなきゃ続かないと思います。だから、無理をして興味や知識のないジャンルには手を出さない。

もともと仕事で証券やファイナンシャルプランナーの資格が必要で取得していたので経営コンサル系のお仕事をいただいたり、あとはフード系と化粧品の資格もとって活動しています。

── それはどんな資格なんですか?

久保居さん:
まず、お化粧の基本や薬事法について学べる「化粧品検定」。コスメ系の記事を書くのに成分に触れることもあるので、知識をつけたくて取得しました。

フード系でとったのは「キッチンスター」という資格です。料理を「魅せる」ための資格で、料理のスタイリングやレシピ開発、SNS運用などを学べます。

── すごい、そんな資格があるんですね・・・! でも正直、資格がなくても発信はできますよね?

久保居さん:
でも、たとえばコスメって直接肌に触れるものだから、成分を知らないと書くのが難しいし、薬事法の関係で表現もすごく難しいんですよ。

自分の名前で発信するのに責任があるので、そこに無知でいたくないと思うので。

久保居さん:
キッチンスターの資格をとったのも、「インスタ映え」とか「フォトジェニック」って言うけれど「じゃあ、それをどうやって演出してるんですか?」って聞かれたときに、きちんと答えられる人は少ないんです。

仕事としてやるからには、ちゃんと答えられるようになりたい。で、資格をとるために勉強するのは、手っ取り早いし効率的だったんです。

── 仕事をお願いする側から見ても、わかりやすい信頼の指標になりますね。

久保居さん:
今ってたくさんのインフルエンサーがいるじゃないですか。わたしは、「これってだれでもできる仕事だな」って思うので。

だからこそ、声をかけてもらえるように、自分の仕事の内容や信頼の価値は高めていきたい。関係ない資格をたくさんとろうとは思わないです。興味のある分野を磨いていきたいです。

▲久保居さんの仕事道具。カメラは常にデジカメと動画用のビデオの2台持ち。バッテリーも持ち歩くので大荷物

── 今、いちばん積極的に投稿しているのはブログですか?

久保居さん:
今はインスタグラムですね。インスタグラムに上げるトピックはすべて「ママ関連」の世界観に統一しています。ママらしくないものは、やらない。

▲取材中もインスタグラムのDM通知が舞い込んでいました

── ほかに発信において、気をつけていることはありますか?

久保居さん:
リアルタイムで投稿しないこと、です。

独身のときは現地でツイートすることもありましたが、子どもと一緒の現場が増えてきたので、自分たちの居場所がわかるような投稿は控えています。

あとは、ほかの子どもを絶対に写さない。たとえ手の一部であっても、です。

── 手の一部でも!? そこまで徹底しているんですね。

久保居さん:
子育ての方針は家庭によって違うので。

しかも、まわりのお母さんたちもわたしの仕事を知っているので、やみくもにカメラを向けて怖がらせてはいけないなと思って、徹底しています。

子どもの写真だけじゃなく、保育園の行事や近所のイベントなど、周辺の出来事がわかるようなことも絶対に発信しないですね。

── 久保居さんにPRのオファーが絶えない理由がわかる気がします・・・! ここまでまわりに配慮して発信できる人は少ないはず。

▲娘さんがいつもリンクコーデで登場するのも世界観の演出。もちろん自費です・・・!

万が一のことがあっても、自分で子どもを守れるという安心感

── 久保居さんが、精神的・経済的に自立を感じた瞬間っていつですか?

久保居さん:
自立ですか。そうですね・・・精神的な自立を意識したのは、実家を出た大学生のときですかね。

ただ、経済的にも自立できたのは、やっぱり就職した瞬間じゃないでしょうか。

── 実家を出たり、就職したりというのは、わかりやすく自立を感じますよね。今はどうですか?

久保居さん:
旦那さんの扶養に入ることもできたのですが、自分でお金を稼いで自分のやりたいことができているというのは、安心感があります。

たとえばですけど、もし離婚したり、夫が事故にあったとしても、すぐに「生活どうしよう!」とはならない。自分で子どもを守っていける。

── 特にお子さんがいるとその安心感が得られることは大切ですね。旦那さんとはお金についてのルールは決めていますか?

久保居さん:
夫が生活費を出してくれて、それ以外のお財布は夫婦それぞれです。お互いにいくら稼いで、いくら使っているかも知らないんです。

ただ、「この頃には長女が中学受験だからお金がかかるよ」とか、そういう大きな節目については共有するようにしています。

日々の家計というよりは大きな方針について話し合う感じです。

── 仕事でこれからやっていきたいことはありますか?

久保居さん:
せっかく会社員じゃない人生を歩み始めたので、それを謳歌していきたいな。時間の区切りもないし、24時間をどう配分するかはすべて自分の選択なので。

今はフードの仕事が好きなので、そこをさらに磨いていきたいです。キッズのお仕事は子どもが大きくなるとできないですから。

これまでもずっと自分のライフステージに合わせた発信をしてきました。そのときそのときで、好きなものを極めていけたらいいなと思います。

【編集後記】インタビューを終えて

SNSで誰もが気軽に、情報や個人の意見を発信できるようになった今。

ライバルが多い中で、インフルエンサーとして仕事をしていくには、「この人と仕事をしたい」と常に選ばれ続けなくてはいけません。

子育ての合間に資格の勉強をすることも、周囲に迷惑をかけないよう配慮した表現にすることも、すべては発信の仕事を続けていくために必要なこと。

久保居さんがインタビューの中で繰り返したのは「好きだから、続けられている」という言葉でした。

「好きなことを仕事にすると楽」なのではなくて、「大変なことも乗り越えられるくらい好きだから、それが仕事になる」ということなのでしょう。

この取材後、例年ブログの人気コンテンツだということで、「福袋を予約しに行ってきます!」と街に駆けて行った久保居さんの後ろ姿を見て、「好きじゃなきゃできない。好きじゃなきゃ・・・」とつぶやくわたしなのでした。

▼久保居さんのブログ、SNSはこちら
ブログ:Kuboi Ayumi Official Blog
Instagram:himekagami
Twitter: ayumi

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この記事を書いた人

編集者・ライター。雑誌出版社に勤務していましたが、取材で訪れたタイ・バンコクの街に一目ぼれをし、即移住。現地のフリーペーパー編集部で3年半働き、今は帰国してフリーランスに。人生において毎日の生活をおくる「場所」がとても大切だと考えていて、いつも最高の住みかを探しています。将来はバンコクにも自分の居場所(ゲストハウス)を作りたい!