鳥取県の大山町でライター・ビアエッセイストとして活動されている、矢野竜広(やの たつひろ)さんに地方でライターをすることについてお話を伺ってきました。
ネットにつながっていれば、どこでも仕事ができる時代になったことと、ウェブメディア全盛の時代ということもあり、ライターという職業は注目を集めています。
地方でライターとして生活するのはどんな感じなのか、どんな仕事をこれからしていきたいのか、いろいろお話を聞いてきましたので、これから地方でライターをしようと思っている方の参考になればと思います!
インタビューの流れ
今回の話は、以下のような流れで展開していきます。
- ビアエッセイストとは?
- ストーリー仕立てで伝える、地元の会社案内
- 東京でのライター仕事と、地元でのライター仕事の違い
- 地方に移住して東京のウェブメディアと仕事をした実情を公開したい
- ライターの仕事をもらうコツは、オリジナルの肩書きをつけること
- 自分が体験して本当に思ったことは、ちゃんと書く
- ノンフィクションの仕事に熱を注ぎたい
矢野竜広さんインタビュー
インタビュー日:2016/2/17
矢野さんには、地方でライターをすることの現状と、稼ぎにくいけれどもやりたい仕事について話していただきました。
ビアエッセイストとは?
── まずは、矢野さんのお仕事の話を聞きたいです。ビアエッセイストということは、ビールの記事を専門として書いているんですか?
矢野:
ビールは大好きです!
しかし、ビールの記事だけではありません。
日本ビアジャーナリスト協会という組織があって、そこに出入りしてるうちに、今の仕事を始めました。本を出す機会もありますね。
── 本を出されているんですか。
矢野:
出版社から、日本ビアジャーナリスト協会に依頼が来るんです。
協会に属していて、かつライターという人は数少ない。
たまたま僕がライターだったこともあり、声がかかりました。
協会のメンバーと一緒に、共著の形で2冊本を書きましたね。
── すごいです。本を書かれてるんですね。
矢野:
最近は、ライターとしての仕事だけでなく、好きなビールの仕事の話も、ちらほら舞い込んできます。
この前は、NHK文化センターの鳥取教室から講義の依頼を受けて、1日講座を開きました。
また、地域おこし協力隊のマーシー(佐々木さん)が観光の企画を立ち上げて、「大山町の絶景ロケーションでビールを昼から外で飲もう!」みたいな企画をしています。
── 大山でビール飲むっていいですね! いい景色ですし。
矢野:
昼に外でビールっていうのは最高なんですよ。ビール好きには。
── 僕はお酒は苦手ですが、飲めたらより楽しさが伝わったかも(笑)
ストーリー仕立てで伝える、地元の会社案内
── 普段のライター業では、どんな記事を書かれてるんですか?
矢野:
地元の大山町でやっているのは、米子の設計事務所の会社案内とかです。
僕らが作った設計事務所の会社案内なんですけど。また、「イエヒト」という会社の会社案内も、最近作ったばっかりなんです。お見せしますね。
── ここにある全部?
矢野:
そうですね、取材して全部書きました。
僕は個人的にノンフィクションが好きなんですよ、昔から。
ドキュメンタリーとかも好きなんですけど。
それを活かせないかなというところで提案したのが、こういう読みもの調の書き方で。
ちょっとただ取材して、「○○さんのお宅にお邪魔しました、ここにこだわりがあります」といった書き方ではなくて、ストーリーチックにしているんですよ。
例えば、「関西一大きな地震が襲った」という地震のくだりから文章が始まる。
そういうストーリー仕立てにして、人生を紹介しながら、イエヒトのオープンシステムの良さを伝える。
そういう書き方は、遠目から見た時の見栄えには変わりません。
でも、読むと記事の質がちょっと違うと思います。
言わないと伝わりづらい部分ではあるんですけど、僕なりにそれをやっていきたいと思っています。
── そうですね。読後感が違いますよね。
矢野:
設計事務所の記事とかを読むと、「◯◯さんのお宅にお邪魔しました」、「こだわりはこれだそうです」といったお決まりの内容が多いんですよね。
その時点で、読まされてる感が出てくるんじゃないかと思ってしまうので、ストーリーにこだわっています。
例えば、「家のどこにこだわったんですか」とか。
質問の内容は一緒でも、アウトプットの仕方一つ変えれば、もうちょっと読者をひきつけることができると思います。
── ストーリーがある方が、読んでて面白いですよね。
東京でのライター仕事と、地元でのライター仕事の違い
矢野:
地元の仕事って意味では、最初に大山町に移住して、米子の方に営業に行ったことがありまして。
とある代理店が企画していた「半額満載」という、冊子を見せると半額になるクーポン本の仕事をいただきました。
── ホットペッパー的な感じでしょうか?
矢野:
そう、ホットペッパー的なんですけど、有料なんですよ。
これも、写真からテキストから全部やって。営業もやりましたね、そういえば。
それがなんか、東京と大違いなところで。
僕は東京で6年間広告制作会社にいたんです。
コピーライターとしてやってて、ライターだけだったんですけど。
こっちに来るともう、お店がOKだったら僕が写真撮影もするし、もちろん写真のテキストも書いて、さらに進行管理もして、なんでもやるんです。
── 全部されてますよね。
矢野:
全部自分でやんなきゃいけないですし、だからこそ、ライターって概念がないんですよね。
営業の人が全部書くこともあります。
営業とかいう概念がなく、スタッフの人が、社員の人がそれを全部やってるので。
書くことも、写真撮ることも、営業も、全部やってる。
だから、あんまりライターに外注するって文化がないようですね。
なので、それなりに地元の仕事はやってるんですけど。それだけだと、やっぱり収入的に不安定なので。
── ええ、そうなんですか。
地方に移住して東京のウェブメディアと仕事をした実情を公開したい
矢野:
そうなんですよ。
なので、これからはリモートでウェブメディアの仕事を引き受けようと思っています。
── リモートで実績ができたら、移住を検討している人にとっても夢が広がる気がします。
矢野:
まさにその通りです。
東京とかでライターとかの仕事して、地方行ったらどうなるんだっていう情報が全然なくて。
多分、何年か前にそういう人もいたんでしょうけど。
でも、ウェブメディアブームが起きた上で、地方に移住したライターみたいな意味では、もしかしたら第一陣かもしれないので。
そういうのを、ちゃんとまとめて書きたいと思ってるんですよ。
── 自分自身の仕事内容として。
矢野:
米子でこういうことやって、でも収入的にはこうだったとか。
地元でこういう風にやってこうだった、今度こっちやってみたらこうなったとか。
そういうことを、赤裸々にちょっとまとめておきたいなと思って。
── 読みたいです。
矢野:
ライターとして地方行ったらどうなるかみたいな。
── どこでもできますからね。特にウェブになると。
矢野:
ですね。
とはいえ、ライターって、やっぱ取材してなんぼってところもあるんですよね。僕がノンフィクションが好きだからかもしれないですけど。
そう考えると、鳥取はすっごい不利なんですよね。
どこに行くにしても、やっぱりアクセスが悪いですし。
それを逆手にとって、山陰の人にインタビューしてアウトプットするってことも考えられるのかもしれないですけど。
── むしろこの環境を生かす方が良いと思いますけどね。
矢野:
テーマによっては。例えば、ビールをテーマにした時に、集中してるのはここじゃないですからね。醸造家とか。
── 山陰にはないんですか?
矢野:
あります、鳥取にもあるんですけど。
そこをドキュメントするんだったらいいんですけど、あるテーマに沿って書こうとした時にはそこだけじゃ足りないこともあるでしょうし。
この前の「築き会」のノンフィクションの本を書いた時に、欲が出てきたんです。
参考:「結ぶ」と「築く」 〜鳥取・大山町の移住者たちが挑んだ婚活事業〜 (∞books(ムゲンブックス) – デザインエッグ社)
チラチラとノンフィクションの記事を書くんじゃなくて、本当に丹念に取材して、20万字くらいの記事や本を書きたい。
今だったらnoteとかでもいいのかもしれないですし、Kindleでもなんでもいいんですけど。何かしらの形として残すのが理想です。
── 自分自身の半生についてとかでも良いかもしれませんね。
ライターの仕事をもらうコツは、オリジナルの肩書きをつけること
矢野:
僕は、ライターとしてなんでも書きますってスタンスなんです。
ただ、クライアントさんとコミュニケーションを取るときに、「何が得意ですか?」って聞かれますよね。
── ああー、聞かれるでしょうね。
矢野:
昔は、ビアエッセイストとは名乗っていませんでした。
ある時、ビールって良いなって気づいた時に、単純に好きだったから、しっかり調べていったんです。
でも、もう一つ冷静な目の中では、「これは絶対自分の武器に将来なるだろうな」っていう計算もあって。
そこで、ビアライター、ビアエッセイストっていう風に勝手にネーミングしたんです。
そういう風な肩書きを名刺に入れると、ただライターって書いてた時よりも、やっぱり反応が良いんですよね。「ビール好きの人ね」みたいな。
でも、何もないと、ただライターで終わっちゃう。
そういう時期がありました。
ビアエッセイストと名乗れば、少なくともビール好きには刺さるので。
「君、ビール好きなんだ」みたいな感じで言われます。
── あー、そうですよね。「ライターです」って言われても、「何が得意なんですか」っていう質問になりますもんね。
矢野:
結局聞かれるので、答えを書いちゃったってことなんですよ。
ビールが好きなんですみたいなことも言わないで、名刺に書くっていう。名乗ったもん勝ちなんでね、肩書きなんて。
実際、そういう肩書きって大事だなと思います。
というのは、僕ただのビール好きなんですけど。
講演に誘われるとき、「ビアエッセイストが伝授する」みたいな、そういう風にタイトルが入るだけでそれっぽく見えるんですよ。
── 見えますね。
矢野:
企画っぽくなるっていうか。
確かにそうだなと思って。
── ものすごい専門家が教えてくれるみたいな。
矢野:
そのような錯覚を生み出すみたいで(笑)
ちゃんとお客さんも集まって、また2回目もあるくらいなので。
そっか、そういう風に名乗ったら良いんだなと。
自分が体験して本当に思ったことは、ちゃんと書く
── ところで、生活に密着した記事とかって書いたりはされますか?
矢野:
例えばどういうのですか?
── 僕が運営する「ノマド的節約術」の記事のネタなんですけど。
矢野:
あー。ないかもしれないですね、そういうのって。
そういうのってみなさん調べて書くんですか、ネットとかで。それとも、自分の体験で?
── 自分自身の体験をもとに書いてもらってますね。
矢野:
ですよね。
調べるだけなら、同じことが量産されるだけですもんね。
── ネットから調べて書いても、同じになりやすいですし。
矢野:
うまくいろんなことを組み合わせて、一つにまとめたら価値はあるのかもしれないですけどね。
すぐ消えちゃったんですけど、バズニュースって、著作権の問題でなくなったサイトあるじゃないですか。2014年頃。
── ありましたね。
矢野:
栄枯盛衰というか。
── 今でもそういうサイトいっぱいありますよね。どこのサイトも違反してるじゃんみたいな。
矢野:
そっか。やっぱり著作権って大事ですよね。
ビールが好きで情報を集めていると、海外のサイトで面白い記事が見つかることがあるんですよ。一時期、そういった記事を趣味で翻訳しようと思った時期があって。
それをやろうと思ったんですけど、でも結構面倒臭そうだなと思って、著作権のことが。
── ウェブメディアは常にそういう問題が隣り合わせですよね。
矢野:
そういう意味では自分の体験っていうのは本当に強いですよね。絶対誰も真似できないですし。
── そうですね。仮に一緒だったとしても、自身の体験で書いてるから。
矢野:
本当に強く思ったことは強いですよね。
なので、ビアエッセイでは、言いきるようにしています。
── 人それぞれ経験が違いますからね。
矢野:
もちろん、公序良俗に触れるものはいかんですけど、本当に思ったことだったら、自分個人のことをどんどん書こうと思いますね。
ノンフィクションの仕事に熱を注ぎたい
── ビアエッセイのほかには、どんなことを書きたいと思いますか?
矢野:
僕、絶対ノンフィクションがやりたいな。ノンフィクション風広告。
そこが自分の武器になって、ちゃんと安定して稼げるようになって、ちゃんと自分の本を、ノンフィクションの本を出せるようになるのが夢というか、目標ですね。
── 目標か。
矢野:
別にビールじゃなくてもいいんですけど。
それこそブロガーの人たちの群像とかでもいいですし。
でも、自分が興味持ったところじゃないと絶対にできないので。
── そうですね。取材とかなると。
矢野:
そこに好奇心とか、知りたいっていう欲求がないと絶対続かないじゃないですか。
多分お茶濁すこともできますよ。
適当に調べてっていうと、言葉悪いですけど。
アウトプットとして何文字書くとか、それはプロですからできるんですけど。それでは絶対に熱量もないでしょう。
僕は、今すっごいノンフィクション読み漁ってて、勉強でもあり、楽しみでもあり。
夜、子供が寝た後の時間は、必ず本を読んでインプットしていますね。
── すごい!
矢野:
今HIVかかってる人の本とか読んでいて。
最近だと、福島の原発の置き去りになっちゃった双葉病院の話とか、そういうのを読んだりして。
将来のやりたいことのために。
もちろんこれまでも読んでたんですけど、より加速度的に読むようにしています。
── そうですね。
矢野:
自分がノンフィクションを書いてみて、もうちょっと先人の作品を学ばないとなと思いました。構成もそうですし、ボキャブラリもそうですし。
ノンフィクションなんだけど、どこまで装飾するかとかってあるんですよ。なんつうかなあ、華美にするというか。
「これ本当かよ?」みたいな人もいるんですよ。
でも、すっごい淡々と書くだけの人はやっぱつまらなかったり。そこのさじ加減っていうんですか。
── ああ。言葉の使い方ってことですよね。
矢野:
そうです。
「絶対その場にいないのに、なんでそんな表現できるの!?」みたいな、流麗な描写する人とかいるんですよ。
その時にこの人の頭の中でこういうことがよぎったみたいな、そんなのわかんないじゃんみたいな。
── うんうん。
矢野:
でも、そのさじ加減があって。
読むと分かるんですよ、ここはやりすぎだなとか、ここまでだったら楽しいぞとか。
逆に、何にも書いてないと、もうちょっとここ装飾してもいいんじゃんとか思います。
そういう部分に、すごい学んでいますね。
偉そうなんですけど、単純に一読者として。
── そういう視点を持てないと、気づかないですよね。
矢野:
以前は普通に読んでたんですけど、今はちょっと意識しています。
ストーリーなら、この持っていき方、こっから始めたらすげえ面白いなとか。
ただただ時系列で書いても絶対面白くないんですよね、物事って。
でも、入れ替えすぎても複雑になるんですよ。
トリッキーになっちゃう。なんだこれみたいな。
そこの妙、バランス、さじ加減ですけど、楽しみながら学んで、将来への布石としてますね。
── 楽しみですね。
矢野:
あとは、自分がいかに腹くくってやるかどうかなんですけどね。
── ああ、そうですね。
矢野:
お金の問題で動かなかったら、それで実現できないだけの話で。
ちょっとやってみて、取材とかも動いてみて、書いて失敗するかもしれないですけど。
── でも、失敗の経験も残りますからね。
矢野:
いつかはそういう、博打的な時も必要なのかもしれないとは思ってますね。
すべてが整ってからじゃないとできないっていうことはない。
── 待ってたら長いこと時間が経ってしまいそうだし、いつまで経ってもこないかもしれないですもんね。
矢野:
ですです。
それはすごい思います。
やりたいんでしょお前はって。自分に対して。
だから、誰からの支援がなくても、リターンを信じてやる。
もしかしたら、リターンはないかもしれないけど。
そう言えるように、その前の段階ではちゃんと稼がないといけないと思います。
── そうですね。
矢野:
すいませんなんか。長々と。
── すごい勉強になります。自分も頑張ろうという気持ちになりました。
矢野:
好きなジャンルと、コツコツ何かを読んでるだけなんですけどね。
── 自分も本当頑張らないとな。今までの仕事が甘いんじゃないかなと思ってたりすることもありますし。
矢野:
そんなことないです。
僕の方は、稼がなきゃいかんという思いですね。
── できますよ、それだけの熱い思いがあれば。
矢野:
書くこと以外は苦手なので……(笑)。
── 僕もそうです、頑張ります(笑)……では、ありがとうございました!
矢野:
ありがとうございました!
編集後記:インタビューしての感想
私はブロガーですが、なかなか文章を書くことを仕事にする方とは出会えないこともあり、矢野さんとの話はすごく楽しかったことを覚えています。
気がつけばかなり時間が過ぎていた・・・
そんな感じだったんですよね。
Webライティングの話は、私自身も勉強になるところがあり、さすがプロの方は違うと思ったものです。
最近、矢野さんがクラウドワークスなどの仲介業を経由しない仕事を始めたことをメッセージで知りました。
Webコンサルティング会社と直で契約して、サイトの原稿を執筆しているそうです。
「東京の会社からいただく安定した仕事と、自分の生活や地元での仕事とのバランスを考えたい。そうして仕事の量を自由に調整できれば、かなり理想的な働き方に近づくと思います」とおっしゃっていました。
日本で一番人口の少ない鳥取県のさらに田舎でライターとして活動されている様子は、今の時代に合った働き方だと思います。
矢野さんにはお子さんが1人いて、奥様がもう1人妊娠中でした。
家族がいて、地方でライターとして生活できることは、同じようにしたいと思っている方の励みになると思います。
今回のインタビューが、何かしらヒントになればうれしいです!