贅沢な食事は金額で決まるの?「風土はfoodから」料理長・石丸敬将さん

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高い値段の料理はたいてい、美味しい。

けれど、この記事を書いている私(小山内)含む平均的な所得の人たちにとって、毎日高い金額の食事をとることは経済的に厳しいものがあります。

だから月に2回くらい、恋人や友人と味もお店の雰囲気もいい感じのレストランや焼肉屋でご飯を食べることが自分にとっての贅沢で、それ以外の日々の食事は「正直、妥協して選んでいるのだ」という意識がありました。でもそれは、仕方のないことだよな、とも思っていました。

食と贅沢についてそんなふうに考えていたとき、神田錦町にある食べられるミュージアムがコンセプトの「風土はfoodから」の料理長・石丸敬将さんと出会いました。

石丸敬将さん

石丸さんは、10年以上料理人として厨房に立ち、日本を旅しながら生産現場に足を運び、現在は風土はfoodからで郷土の味を一度分解して再編集したオリジナル料理を提供しています。

風土はfoodからは、世界のおばあちゃんの料理が食べられるおばんざいバル。

高すぎず安すぎない金額感で、石丸さん独特の料理の説明と一緒に、地域の文化遺産である食を生産背景ごといただけます。

風土はfoodから

風土はfoodから

一度、会社の忘年会で風土はfoodからを訪れたことがあった私は、お店を出る頃にはお腹だけでなく心まで満たされた気持ちになりました。

「贅沢な食事って、金額や味やお店の雰囲気だけをさすのではないかもしれない」

こんなことを思ったので、後日再びお店に伺い、風土はfoodからのこと、石丸さんが考える食と贅沢について、お話を伺ってみました。

石丸敬将さんインタビュー

石丸敬将さん

インタビューした日:2019年1月21日(月)

五感まるごとで食べられるミュージアム「風土はfoodから」

── 風土はfoodからのコンセプト「食べられるミュージアム」とは、どういうことなのでしょう?

石丸:
風土はfoodからは、一階は世界のおばあちゃんの料理をその文化とともに味わえる「おばんざいバル」となっています。二階は、季節・期間ごとに様々な地域の食文化を展示する特別スペースです。

風土はfoodから

風土はfoodから

石丸:
どうしてこういう造りになっているかというと、五感まるごとで「美味しい」を味わってもらうためです。見る、知る、聞く、味わうを通して、新しい食の世界に飛び込んでみてほしいという想いで運営しています。

だけどこれは僕が思いついたわけではなくて、もともとは秋田でハバタクという会社をやっている丑田(うしだ)さんという方が提案したんです。

丑田さんは、「料理と地方を結びつけ、食の文化が未来まで継承していけるようなお店をやりたい」と考えていて、生産現場を見てきた料理人を探していました。そこで声をかけてもらったことが、僕がここの料理長になったきっかけです。

── 石丸さんは生産現場を見ていらしたんですね。

石丸:
ここの料理長になるまで自分は日本全国を旅していて、野菜やお酒の生産現場を回りながら生産者の生の声を聞いていました。

── 日本全国を旅していたのはどうしてですか?

石丸:
もともと、高校卒業後は料理人をやっていたんです。10年くらい厨房に立っていたのですけど、「このまま60歳くらいまで飲食で働くのかな・・・」というモヤモヤした気持ちがありました。

というのも、そもそも飲食業界の働き方に無理を感じていたことや、飲食店情報がまとまったサイトでの評価、他の料理人との比較に疲弊していたというのが正直なところで。

それで一旦、ウェブライターに転身したんです。

── 料理の世界からライターに。

石丸:
でも完全に料理を切り離したわけではなく、料理×インターネットで何かできないかな?という気持ちがあって。

自分は広島出身なんですけど、いつかは広島に帰ろうと思っていたのでその壮大な寄り道をしながら食の生産現場を回ろうと思い、日本全国の旅へ。

そこで丑田さんに出会って先のようなお話をいただき、「中間発表のような形で何か料理で表現できないかな?」という気持ちが芽生え、ここの料理長になった経緯です。

メニューはすべて、文化遺産を分解して新しく産み出す「分解+産(ブンカイサン)」

── 風土はfoodからでは、世界中のおばあちゃんの料理がいただけるとのことですが、そもそも「おばあちゃんの料理」を出そうと思ったのはどうしてですか?

石丸:
その前にひとつ前提として、おばあちゃんの料理を「そのまま」出しているわけじゃないんです。

風土はfoodからは、おばあちゃんの料理のような日本中どこにでもある郷土料理を、地域の文化遺産だと考えています。

── はい。

石丸敬将さん

石丸:
僕たちはおばあちゃんの料理の形状そのものというよりは、その料理が生まれた文脈とか精神性にリスペクトがあるんです。おばあちゃんの知恵や技術、想いってすごいじゃないですか。

── 具体的におばあちゃんの凄さを感じたエピソードはありますか?

石丸:
瀬戸内海の小さな島に「もどりうけ」という郷土料理があるんです。そこで暮らすおじいちゃんたちの仕事のほとんどが遠洋漁業で、一度海に出ると1ヶ月から3ヶ月くらい戻ってこない。

おじいちゃんの船が戻ってくるのが見えたとき、おばあちゃんが急いでつくる即席料理が、もどりうけです。形としては味噌汁なんですけど、畑にある野菜と練った団子状の小麦粉が入っています。

── 野菜と、小麦粉の団子。

石丸:
どうして野菜と小麦粉の団子かというと、海の上では野菜不足になるし、寒い思いをしているから、まずは温まってもらうという意図があるらしくて。

── 愛と創意工夫が施されていますね。

石丸:
それで、僕もつくってみたんです。野菜をとってきて、煮込んで、小麦を練って・・・それで気づきました。

「全然、即席料理じゃないじゃん」って。

そもそも味噌だって作っちゃってるから、数年かかってるじゃんって(笑)。

風土はfoodから

── 昔の人からしてみれば、即席だったのかな。

石丸:
そう、その時間感覚のギャップがおもしろいですよね。

おばあちゃんの料理を紐解くということは、その土地の歴史や文化ごといただけるということ。

── たしかに。おばあちゃんの料理を文化遺産だと思えてきました。

石丸:
だけど僕らはそれを、未来へつなげていきたいし、自分としては、おばあちゃんの料理から得た発見や驚きまで、料理人として表現したい気持ちがある。

だから一度おばあちゃんの料理を分解して、伝えたい要素を抽出し、新しいメニューを産み出しています。文化遺産を「分解+産(ブンカイサン)」にして、提供しているんです。

── ブンカイサン料理について、もっと教えてください。

石丸:
ギャグみたいな名前なんですけど、風土はfoodからは「干されても、干されても」という春雨サラダをランチで出しています。

── お店があるエリアはオフィス街じゃないですか。サラリーマンとか、思わず反応しちゃいそうなネーミングだな、と。

石丸:
「干されても、干されても」では干し野菜を使っているんですよ。これも、おばあちゃんの知恵でふつう野菜の保存って冷凍じゃないですか。

でもおばあちゃんは、料理に使えなさそうな野菜の余分な部分を、乾物にしちゃうんです。乾物にすることによって保存も効くし無駄な部分も食材になるしで、節約につながります。

また、干すことにより、旨味が凝縮される。だから「干されても、干されても」には、「干されても旨味が凝縮している時期で、ちゃんと食べてもらえる時期がズレているだけなんだよ」というメッセージも込めているんです。

── いい話すぎる・・・。

風土はfoodから

贅沢な食事ってなんだろう?

── 石丸さん自身は、普段はどんな食事をとっていますか? やっぱり自分でつくられるのでしょうか。

石丸:
自分の食事は全然つくらないです。外食か、コンビニ弁当やカップ麺の日も多いです。

── 意外でした。

石丸:
料理長なんてやっていると、「オススメの外食先」とか聞かれることもあるんですけど。僕はそういうの、本当に疎くて。自分が行くお店も、料理仲間のお店しか行かないですし。

そもそも僕はお金持ちなわけでもないので、そんなに食にお金をかけられないんですよ。

石丸敬将さん

── 共感します。高い金額のものはやっぱりそれ相応に美味しいけど、それで財布を圧迫するわけにはいかないなぁと、私はよく思います。

石丸:
高くなくて、贅沢なものって何が思い浮かびますか?

── 実家のご飯、ですかね。

石丸:
人によると思うけど、僕もそう思います。

けっきょく、親が自分のためにつくってくれるっていうのが、満たされる感覚につながっているんじゃないかと思うんです。贅沢って、つまるところ愛を受け取ることだと思います。

── 贅沢な食事とは、愛を受け取ること。

石丸:
おばあちゃんの料理にも愛が詰まっていると思っていて。おばあちゃんって孫が「それ好き」っていうと、ずっとおなじものを大量につくり続けるじゃないですか。

── わかります(笑)。

石丸:
話が戻るんですけど、実家のご飯で満たされるとすれば、高い金額の食事を取ることだけが食の贅沢じゃない気がしています。

最近の唐揚げ弁当とか、唐揚げ以外おかずが入っていないものがあるんですけど、男の人とか結構好んでそれを手に取ったりしているんですよ。

愛って言い換えると、メッセージのことで。あなたに食べて欲しいというメッセージを、これは自分に向けたものだと思い、納得して手に取る。その行為で満たされるんじゃないかと思うんです。

── では、石丸さんは妥協してコンビニ弁当やカップ麺ということではなく。

石丸:
むしろ愛を感じながら食べています。

たぶん自分の食事をつくらなくなったのは、僕自身が毎日風土はfoodからでメッセージを発信しているから。自分が食べるときは、誰かからのメッセージを受け取りたいという気持ちがあるから、つくらなくなったと思うんです。

今は食費で経済を圧迫しない程度で、納得したものを選んで食べているから、虚しさとか寂しさを感じることはありません。

きっと、「安くて手がかかっていないからテンション下がっちゃう」なんてことはなくて、納得して食べるものを選ぶことで、値段に左右されず満足度を高められると思います。

石丸:
また、テクノロジーの進化で、たとえば500円の中でもいろんな選択肢がある世の中になったと思います。それによって「何を食べよう?」と悩むと思うのですが、その悩むという行為自体も、ひとつの贅沢な気がするんです。

── たしかに、食べ物で悩んでいるときって幸せです。

石丸:
選択肢の多さに感謝しつつ、「今日はこれを食べよう」とちゃんと納得して食べれば、贅沢とまでは言わないけれど、心身ともに満たされるんじゃないかと思います。

石丸敬将さん

インタビューした感想

風土はfoodからは食べられるミュージアム。五感いっぱいを使って食を味わえるという体験が、お店を出た後、お腹だけでなく心も頭の中もいっぱいさせるのだとわかりました。

だけど風土はfoodからは、特別高い金額で料理を提供しているわけではありません。

石丸さんの「贅沢とは愛を受け取ること」というお話も合わせて考えたとき、それまで私の思っていた贅沢な食事は、もっといろんな要素が重なり合って、贅沢だと感じさせてくれているのかもしれないと思いました。

一緒にご飯を食べる人、それを作ってくれる人、誰かの想いが自分の想いとマッチしたとき、お金では買えない幸福な食事を体験できるのかもしれないと、取材を終えた今は思っています。

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この記事を書いた人

小山内 彩希

編集者・ライター。1995年生まれ、秋田県能代市出身。株式会社Wasei「灯台もと暮らし」編集部。野球しながら植物を育てています。

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