イギリス暮らしの中で変化した、買い物の価値観とは Filg Showroom 油井さち子さん

「お金の価値観」の話を聞きたいと思ったときに、真っ先に頭に浮かんだのが高校時代からの友人の顔。

彼女の名前は、油井さち子(ゆい・さちこ)さん。

現在はパリやロンドン、イタリア、デンマークなどヨーロッパの若手デザイナーや日本未上陸のバッグやアクセサリーを取り扱う「Filg Showroom(フィルグ・ショールーム)」を運営している、同級生の中でもなかなかの出世株です。

学生時代からファッションが大好きで、校内でも目立っていた油井さん。

彼女とは10代の多感な時期から一緒に成長してきましが、彼女が留学先のロンドンから帰ってきた28歳頃から、明らかに「大きく何かが変わった」ように見えたのです

仕事も、私生活も、そして彼女が大好きな「ショッピング」の仕方も。

ロンドン生活で一体何があったんだろう。

改めて、聞いてみることにしました。

油井さち子(ゆい・さちこ)さんインタビュー

英語の楽しさに触れた中学時代。きっかけはAETの先生と話がしたかったから

── まず、現在のお仕事について教えてください。

油井さん:
まだ日本に上陸していないヨーロッパのアクセサリーやバッグのブランドを発掘して、日本のバイヤーさんに紹介するショールームの運営をしています。

── 海外出張が多いお仕事ですよね。

油井さん:
年に2回大きなコレクション(ファッションウィーク)の時期に新ブランド発掘と既存ブランドの展示会のために、そのタイミングは必ず出かけます。

あとは契約から納品の管理まで自分でやっているので、契約できたブランドに挨拶に行ったり、納品の進捗を確認しに行ったり・・・。

なんだかんだ年に4回くらいは海外に行ってますね。

油井さん展示

── 世界を舞台に働きたい、という思いは昔からあったんですか? 油井さんは高校時代、すでに英語は得意でしたよね。

油井さん:
英語は中学生のときから英会話教室に通って勉強していました。

でも、これは将来の夢とかまったく関係なくて。AETの先生と話がしたかったから、なんです(笑)。

(※AETとは、Assistant English Teacherの略。日本人の英語教師をサポートする外国人講師のこと)

── 英語を話す楽しさと、もともと好きだったファッションが合わさって将来の夢が固まっていった感じですか?

油井さん:
そうですね。高校時代の春休みに初めてロンドンに1カ月の留学に行って。

外国人の友だちにいろんなところに連れて行ってもらって、相当な刺激を受けたんです。街並みとか、文化とか、あと大好きなファッションについても。

その時点で、いつかまたロンドンに行くという思いを固めました。

アクセサリーショップでの武者修行を経て、いざ憧れの地・ロンドンへ

── 高校生のときにすでに将来目指す方向性が決まっていたんですね。

油井さん:
はい。本当は卒業してすぐにロンドンに飛びたかったのですが、高卒で入れるファッション関係の学校がなくて。

なのでジュエリーの専門学校に進学し、卒業後は個人経営のアクセサリーショップに弟子入りしてお金を貯めました。

仕事はすごくハードだったんですが、オーナーがアジアやヨーロッパの問屋や展示会に連れていって現場を見せてくれたので、そこで仕入れの知識をつけていきましたね。

── たしかに油井さんが休んでるの、ほとんど見たことがないです。

油井さん:
そうなんですよ!
休みが全然ないから、買い物をしてストレス発散してましたね〜。

留学費用を貯めるために貯金もしてたんですが、買い物は私の元気の源なので。

── 修行の期間を経て、満を辞してロンドンに留学したのは・・・。

油井さん:
26歳のときです。昔、自分が思い描いていた時期よりだいぶ遅くなってしまったので焦ってました。

油井さん

油井さん:
でも、いざロンドンに行ったら、自分の英語力の低さと言い回しの古さに愕然としてしまって。

自分の英語力だと、アルバイトも日本食レストランでしかできないんですよ。
焦りましたね。すぐにビジネス英語を学べる学校に通いました。

マーケットに立って初めてイギリス人コミュニティに入ることができた

── でも、英語学校と日本食レストランの往復だと、なかなか現地の暮らしに溶け込むのは難しそうです。

油井さん:
そうなんですよね。でも、ある日、たまたま学校のクラスメイトに紹介してもらって、マーケットに出店している人のお手伝いをさせてもらえることになったんです。

── マーケットってどういうものですか?

油井さん:
ロンドンでは、個人が露店のようなお店を出してる広場があちこちにあるんです。

油井さん

最初はお店のお手伝いをしていたのですが、その人がほかのマーケットに移ることになって、場所の権利を譲り受けて独り立ちしました。

── いきなりひとりでお店をやることになったんですね。何を売ってたんですか?

油井さん:
アジアやヨーロッパで買い付けたアクセサリーや雑貨を売ってました。仕入れの経験がここで活きましたね。

収入はあっという間にアルバイト代を超えて、「もうレストランでアルバイトしてる場合じゃない!」とすぐに辞めてマーケットに専念しました。

── え〜、すごい!

油井さん:
なぜか一番売れたのは星座のモチーフ付きのブレスレットで。買っていくのはほぼ観光客でした。

油井さん

── お店を出店している人はみんなイギリス人なんですか?

油井さん:
ほぼイギリス人ですね。毎日同じ場所にいるから、出店者の知り合いや友人がどんどん増えていきました。

ここでようやくイギリス人のコミュニティーに入ることができたんです。

── 自分で生活を切り開いていった感じですね。

油井さん:
本当に。ちょうどこの頃から、手探りでエージェント業もスタートして。ヨーロッパのブランドを発掘して日本のお客さんに紹介するファッション代理店の仕事です。

パリやイタリアに行って、様々なファッション展示会やマーケットをまわってデザイナーを発掘しました。

それで、日本に一時帰国した際にそのブランドを集めたPOPUPストアをラフォーレ原宿で開催したんです。

ポップアップショップ

そのイベントが雑誌『VOGUE』や『NYLON』にも取り上げてもらえて。
これが自分の中の大きな成功体験になっていて、今の仕事にそのままつながっています。

イギリス人は古いものに価値を見出す。消費国家で育ったことを実感した

── 油井さんはイギリスで物を買うことも売ることも経験していますよね。イギリス人と日本人のお金の価値観って、何か違いはありますか?

油井さん:
それはもう、全然違いますね。イギリスの人はあまりお金を使わずに古いものを大切に使います。

建物とか美術品を見ていてもそうですよね。古いものに価値がある文化。

アンティークを紹介するテレビ番組も多いし、街を歩いていてもマーケット、ヴィンテージ、リサイクルショップがたくさんあります。

── でも、古いものを大切にする習慣は日本人にもありますよね。

もちろんそうですが、それでも日本のほうがもっと資本主義的ですよ。食べ物や洋服のトレンドの回転も早い。

── あぁ、たしかに、ブームに流されてしまうところはあるかもしれないです。1シーズンしか着ない服を買ってしまったり。

油井さん:
自分が消費国家で育ったことを実感しました。ロンドンやパリは、エコやサスティナブル、オーガニックという考え方も最先端なので。

油井さん:
スーパーのビニールはとっくに有料化しているし、リサイクルは国できちんと行っているし、マーケットやマルシェの野菜は個装されていないのが当たり前。

いろいろ考えさせられることが多かったです。

── 日本では、今も現在進行形で少しずつ取り組んでいる感じですよね。過剰包装もまだ多い。

油井さん:
私もエコバッグを持参するとかリサイクルをするとか、小さいことから始めるようになりました。

あ、そうそう。エコといえばすごく驚いたことがあって。

── なんですか?

油井さん:
イギリスの人って、食器を洗ったあとに、お皿に残った洗剤を流さないんですよ。彼らからすると、水を出しっぱなしにして食器を洗う日本人のほうが信じられない、と。

── え、ええ! それって体に悪くないんですか?

油井さん:
布巾で拭けば大丈夫という感じなんですよね。ベタベタするんですが・・・。

私がお皿をすすいでいたら、友人に「なんでそんなに水を使うんだ。資源は限られているんだよ」と怒られて。水が貴重な資源なんだって、当たり前のことなんですけど、言われて気づきましたね。

── それはカルチャーショックですね・・・! やっぱり現地で暮らしていると、それが普通になってくるものですか?

油井さん:
洗剤は流しますけどね(笑)。ただ、何事もムダ使いはよくないと学びました。

── 自分の消費行動も変わりましたか?

油井さん:
それが・・・2年間イギリス人の価値観に触れましたけど、やっぱり自分は買い物が好きだし、それが原動力なんですよね〜!

油井さん

油井さん:
「お金を使いたい」っていうのがあるんですよ。物を買うって、楽しいじゃないですか。

── 最近の日本ではあまり物を買わない、持ち過ぎない暮らしを提唱する流れもあるような気がします。

油井さん:
それでいうと私はその価値観とは真逆です。ちょっと昔気質なところがあるのかも。

欲しいものを手にいれるためにがんばって働くし、そもそも物を売る仕事をしているので、やっぱり買うことの楽しさも伝えていきたいんですよ。

── たしかに、好きなものを買うと気持ちが高まりますもんね。

油井さん:
そう、そうなんですよ!
ただし、高くても長く使えるものを購入して、大切にしようという考えには変わりました。

昔はセールの時期になるとまとめて服を買ったりしていましたが、今はそういう買い方は絶対しません。

それはロンドンの街の影響ですね。きっと。

── なるほど。買い物を原動力とする油井さんが、今、手に入れたいものってなんですか?

油井さん:
うーん。欲しい物は常にあるんですけどね。でも今は一番、ロンドンかパリに仕事の拠点が欲しいです。

エッフェル塔

── すごい! それは大きな買い物(笑)。

油井さん:
将来は東京とヨーロッパの2拠点生活にしたくて。

海外から買い付けて日本で売る、仕事だと売上も為替に左右されてしまうのですが、両方の拠点できちんと収入が得られれば影響を受けずに済むので。

── どちらの国の価値観もバランスよく持っている油井さんにはぴったりなライフスタイルかもしれませんね。

【編集後記】インタビューを終えて

「やっぱり欲しいものは手に入れたい。そのためにがんばる」

そう言って笑う油井さんの横顔は、田舎の高校の教室で一緒にファッション誌をめくって「これかわいい」と指を差し合っていた放課後からまったく変わっていませんでした。

ただ、昔のように安くてかわいいものを買っては脱ぎ捨てていくのではなく、高くても長く愛せるよい物を買うといった価値観に移行したことは、近くで見ていてよくわかります。

そして、彼女は今、「長く愛してもらえるモノ」を発掘しては日本に届ける仕事をしています。

自分を動かすガソリンが何なのか。

それをわかっている人はやっぱり素敵です。

ノマド的節約術の裏話

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この記事を書いた人

編集者・ライター。雑誌出版社に勤務していましたが、取材で訪れたタイ・バンコクの街に一目ぼれをし、即移住。現地のフリーペーパー編集部で3年半働き、今は帰国してフリーランスに。人生において毎日の生活をおくる「場所」がとても大切だと考えていて、いつも最高の住みかを探しています。将来はバンコクにも自分の居場所(ゲストハウス)を作りたい!