休学生活とフリーター生活の中で考えた、「働く理由」と「生きがい」

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「なんのために働くんだろう」
「なんのために生きているんだろう」

トクベツな不幸や、強烈な失敗体験があったわけじゃない。

それでも、働く理由や生きがいがわからなくて、社会に出ることが億劫になってしまう。

2014年、朝日新聞から出版された『無業社会 働くことができない若者たちの未来』では、働けない若者(若年無業者)の潜在数が約483万人にのぼると発表されました。

体は健康だけど、勉強はしっかりやってきたけど、働けない、働きたくない。目に見えない葛藤を抱えた若者たちが、じつは見えないところで多数存在しています。

現在、都内に在住のフリーターの男性、Aさん。大学4年生の頃に大学を休学し、卒業してからはいろんな職を転々としたフリーター生活を送っています。

友だちともほとんど交流をせず、時には月の収入が0円だったことも。

不安定な生活を送るAさんに、家族や友人からは心配やアドバイスが寄せられますが、Aさんは頑なにそれを拒んできました。

けれどもAさんは、周りの人に否定されても周りの人を攻撃しない優しさがありました。そんなAさんを、昔からの友人としてずっと横で見てきた私は、Aさんをとても優しい人だと思うのです。

今、IT系の会社に就職活動をし始めたAさん。今回、就職活動を辞めてから再び、就職活動を始めるまでの胸の内を伺いました。

社会の波にうまく乗ることは正解なのか。乗れなかった人生は、失敗なのか──。

現在進行形でもがき苦しんでいる若者に、Aさんの言葉が優しく寄り添うものとなりますように。

24歳、フリーターAさんにインタビュー

インタビューした日:2019年7月13日(土)

会社員になることにご褒美を見出せなかった

── Aさんの、現在の生活状況を教えてください。

Aさん:
今は、都内の6万円台のアパートにひとり暮らしをしています。

昨年の秋に大学を卒業してからは、不動産会社や飲食店、マネキンを運ぶ仕事なんかを経験して、今はIT企業の業務委託的なアルバイトをしています。

外食はほとんどしません。料理をつくることは結構好きなので、自炊をしています。おかげで食費は、結構浮いているんじゃないかと。

── そもそも、大学はどうして休学したのですか?

Aさん:
海外に行きたいとか、会社をやりたいとか、何かスキルを身に付けたいとか、何かやりたいことがあって休学したわけでは全然なくて。

ただ就活をしていたときに、「やっぱりこのまま会社員になって働けないな」と思って。けれども「新卒社員」を捨てることもできなくて、それで思いついたのが休学することだった、という感じです。

── 「やっぱりこのまま会社員になって働けないな」の、「やっぱり」というのは?

Aさん:
もともと、会社員で働くイメージができていなかったんですよね。僕は、家族に誰も会社員がいなくて。

それでも、「会社員として何か目標を持って働いている自分」を想像できたらよかったんだろうけど、それもできなかった。

昔から、もう中学生くらいから、想像できないことを頑張れない性格なんです。中学生の頃は親に、「高校受験しない」と言っていたし、高校生の頃も「大学進学しない」と言っていました。

── 高校生や大学生になっている自分が、想像できなかった?

Aさん:
けっきょく高校にも大学にも進学したので、就活中よりは、少しは想像できていたのかもしれませんね。

大学生って、就活の時期になると友だちに会う頻度も減るじゃないですか。単位を取っていれば、大学にもあまり行かなくていいし。

大学時代はそんな環境だったから、余計に「想像できないことをしたくない」気持ちに拍車がかかったのかもしれません。

人が想像を働かせるときって、具体的な目標があるときだと思います。それか努力して達成したときの、何かご褒美のようなものを描けるとき。

僕は、高校生になることや大学生になることに、なんのご褒美があるのかわからなかったのと同様に、会社員になることにもご褒美を見出せなかったんです。

労働のエネルギーは、お金よりも社会への帰属意識じゃないか

── 休学中はどんなふうに過ごしていましたか?

Aさん:
バイトするか、ひたすら本を読んでいました。

心理学の本とか、哲学書とか、歴史書とか・・・何か心持ちがほしかったんだと思います。

── 心持ち?

Aさん:
生きる指針、というのかな。

自分は「今」にしか興味がなくて、これからやりたいことも、お金もない。その瞬間の辛さを、明日から何かエネルギーに変えられるような、生きる指針を探していたんだと思います。

就活が続けられなくなったとき、「自分なりの哲学やありたい姿が自分にはないから、未来を想像できないんだろうな」と思いました。

そういうのを形成できるヒントを、本に求めていたんだと思います。

── 休学中は、お友だちやご両親との交流はありましたか?

Aさん:
ありました。僕は、正直すごく会いたかったわけではないんですけど。

でもみんな優しくて、たくさん心配していろんな声かけをしてくれました。母には、「なんでもいいから資格取りなさい」とか「地元の新聞社とか受けなさい」とか、いろいろ言われましたけど。

僕がこんな状況でも周りの人を恨んだり、怒りが湧いてこなかったのは、定職につけないことを誰も「甘え」だと責めなかったからだと思います。

── 今って、定職につくこと=幸せな働き方じゃない時代な気もしますけど。それでも叩きたがる人は一定数いる気がします。

Aさん:
僕みたいなケースに対してだけじゃなくて、たとえば結婚ハラスメントとかLGBTへの偏見とかも、叩きたがる人の根底には共通した意識が潜んでいると思っています。

極論、他人の人生だから、自分の生活が脅かされなければ叩く必要はないはずなんです。それでも叩くというのは、やっぱり「脅かされている感覚」があるから。

たとえば、結婚しない人をバカにしたり、無理に結婚させようとしようとする人って、その人自身が「結婚が幸せかどうか、本当はわからない」のではないかと思うんです。

わからないけれど自分は結婚した・または結婚しないといけないと思っているから、そうじゃない人がいると不安にさせられる。自分に軸がなく、脅かされている感覚になるから、叩くんじゃないかと。

だけど本当は叩く人たちって、理解関心を示せる人たちでもあると思う。おなじことをテーマに、悩んでいるわけなので。

── お母さまに就職のアドバイスをもらって、何か変化はありましたか?

Aさん:
いいえ。母のアドバイスは、僕の心にひとつも響かなかったんです。

僕は「とりあえず」の選択で集団の中に組み込まれたくなかった。その時期は会社云々というより、社会の中にいたくなかったんです。

── どんな理由から?

Aさん:
集団に溶け込むことで、自分の内側がどんどん見えなくなっていってしまうような直感があったからです。

宗教研究の分野に、「アニミズム」というのがあるんですけど。

アニミズムって、人以外の自然界のものにも魂が宿っているという、精霊信仰の考え方です。アニミズムにシンパシーを示しているのが、宮崎駿監督。

宮崎さんは「人は誰しも心の奥底に神聖な森があって、誰しもそこに帰りたい欲求がある」というふうなことを言っていて、僕はその時期、それにすごく共感したんです。

そしてそれって、集団の中に溶け込もうとする欲求と真逆なんです。

── 集団の中で、自分が見えなくなると感じたのはなぜでしょう?

Aさん:
集団ってそれぞれの人の立場を考えて、それを加味した上で自分のポジションを取りに行ったり、話す内容や、言葉の調子を変えたりすることが求められるじゃないですか。

そんな中で、周りの目を気にして本音じゃないふる舞いをしたり、やっぱり競争してしまう自分もいることを知っていたから。

それでも自分の目標とか、自分なりの指針とかあれば、上手く周囲の意見を取り込みながら、グラついたりせずやっていけると思うけれど。そもそも僕には「指針がない」自覚があって、だから休学しているわけで。

── 働きたくない、働けないの背景には、Aさんなりの描いているステップがあったんですね。

Aさん:
「とりあえず安定」「とりあえず働く」ができなかったのは、労働によって得られるお金の使い道が、さっきの話とも重なりますが、うまく想像できなかったのもあると思います。

僕、物欲がほんとうになくて。

でも今って、若者はモノを買わない時代ともいうじゃないですか。だからもしかしたら今、多くの若者にとっての労働の対価は、お金よりも、僕が避けたがった「社会への帰属意識」かもしれませんね。

けれども自分は、社会ともつながりたくないし、お金も稼ぐ理由も見出せない。

それに気づいてから、バイトすら行きたくなくなって。危うく餓死しそうになるくらい、ご飯も食べずやせ細りました。

正解がわからない中でも、小さなことから始めればいい

── そんなAさんが、いま就職活動をしているのは、何があったんですか?

Aさん:
働かず、ご飯もロクに食べなかった僕に、当時の恋人が「エンジニアの学校」を勧めてくれたんです。

もともと、パソコンが好きで興味があったけど、自分は文系だから無理だと就活でエントリーしてみることすら諦めていた分野でした。

けれどそのタイミングでたまたま、恋人が「知り合いに、エンジニアの学校をやっている先生がいるから」と紹介してくれて。ネットの講座で受講することにしたんです。

── いま、Aさんが就活している職種というのは。

Aさん:
エンジニア枠での就活です。

── すごい復帰ぶりです。

Aさん:
瀕死状態でしたからね。

「社会ともつながりたくないし、お金も稼ぐ理由も見出せない」こんな自分に気づいた頃、考えたことがあります。

人生は素晴らしいものなのか、ただ辛いだけなのか──。

── 答えは出ましたか?

Aさん:
まだ、わからないです。

だけどその時期に、映画を観て。トム・ファンクス主演の『フォレスト・ガンプ』っていう映画なんですけど。

映画のテーマが、まさに僕が考えていたような問いでした。ネタバレになっちゃうんですけど、映画は「わからない」という結論が出て終わります。

── 現状のAさんとおなじ答えが。

Aさん:
『フォレスト・ガンプ』は、「人生は素晴らしいものなのか、ただ辛いだけなのか。わからないけれど、できることをやっていこう」、そんな気持ちにさせてくれる映画です。

生き方の正解がわからないって、すごく不安。だけど、その不安を無理に消そうとしないで、小さなことから始めてみることが、孤独や無力感から離れるために大切なことだと気づきました。

孤独の正体って、自分のことを考えすぎてしまうこと。つまり過剰な自意識だと僕は思います。何かやっていると、自意識が飛びますよね。皿洗いとか、洗濯とかでもいいのかもしれないけど。

とりあえず何かやっている状態をつくることで、気持ちは明るくなっていく。それを休学生活とフリーター生活の間で学びました。

だから正解を求めすぎることよりも、「今はぼちぼちなんかやっていこう」の精神を持つことが大切なんじゃないかと思っています。

これも、正解かわからないんですけど。でも、それでいいかなと。

間違ったと思っても、またぼちぼち何か始められることができる。それが僕たち人間にとって、生きることの素晴らしさだと思います。

インタビューした感想

働く理由や生きがいがわからず、休学をし、その日をしのぐためのバイト生活を送っていたAさん。

精神的も経済的にも不安定な日々の中、Aさんが見つけたのは、「生き方の正解はわからないけれど、人は何かを始められることができる」という答えでした。

私たちはついつい、人生に意味を求めてしまいますが、もしかしたら意味よりも大切なことがあるのかもしれません。

少し明るくなったAさんを見て、そう感じた取材でした。

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この記事を書いた人

小山内 彩希

編集者・ライター。1995年生まれ、秋田県能代市出身。株式会社Wasei「灯台もと暮らし」編集部。野球しながら植物を育てています。

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