夫婦が別居したとき、「婚姻費用」が必要となる場合があります。
夫婦には「生活保持義務」があるからです。
つまり、夫婦は同等の生活を送るためにお互いに扶助しなければならない、ということ。
離婚を前提にした別居でも、離婚が成立するまでの間、収入が多いほうが、収入の少ないほうに対して婚姻費用を支払うことになります。
このページでは、婚姻費用についてわたし自身が疑問に思ったことをいろいろ調べた結果をまとめていきますね。
婚姻費用はいつからいつまでの期間もらえるの?
婚姻費用というのは、別居中に夫婦が同等の水準の生活を送れるよう、収入が少ない人もしくは収入が無い人に、生活費を送るというものです。
離婚が成立するまでは婚姻費用が必要となります。
離婚せず、再び同居を開始した場合は、同居を開始するまでの期間が対象になるということですね。
一点注意しなければならないのは、婚姻費用が発生するのは「請求したときから」という点。
別居を開始した時点から発生するわけではないんです。
相手がスムーズに支払ってくれない場合、こちらから婚姻費用の請求をしなければなりません。
そのため、相手が婚姻費用を支払ってくれないときはなるべく早く、婚姻費用の分担請求をしましょう。
婚姻費用の金額はどうやって算定するの?
婚姻費用として支払われる金額は、基本的には夫婦で話し合って、お互いが納得すればいくらでもかまいません。
が、基準として、婚姻費用の算定表が使われることが多いです。
参考:養育費・婚姻費用算定表
ちなみに「養育費」とは、離婚後に、子どもに支払われるお金のこと。
このページでお話ししている「婚姻費用」は離婚前に支払われる生活費のことなので、養育費は関係ありません。
※婚姻費用と養育費を両方もらうことはできないということです。
上記リンク先の前半は養育費の算定表になっており、婚姻費用の算定表は「表10」以降です。
子どもの人数によって使用する表が違うので気を付けてくださいね。
この表の、義務者・権利者それぞれの年収に当てはまるところを探して、それらの交わるところが婚姻費用の月額目安です。
「この表のとおりにしなければならない」ということはなく、たとえば子どもが私立の学校に通っていて教育費がかかるということであれば、その金額分を上乗せした額が認められることもありますよ。
算定表のPDFはスマホからだと見づらいと思うので、PCで閲覧するか、プリントアウトして見るのがオススメです。
相手の年収を知るにはどうすればいい?
婚姻費用の金額を決めるうえで参考になる算定表ですが、相手の年収がわからないことには算定表も役に立ちません。
相手の年収を調べる方法としては、会社員であれば「源泉徴収票」を見るのがわかりやすいです。
算定表にある「年収」をいうのは税込み年収のことなので、総支給額を見てくださいね。
相手が自営業などの場合は確定申告書の「課税される所得金額」のところが年収となります。
源泉徴収票や確定申告書を確認するのがそもそもできない場合でも、調停を通して相手に提出を求めたり、裁判所に調査嘱託を申し立てたりもできますよ。
それでも年収がわからないというような場合は、賃金センサス(賃金構造基本統計調査)の平均年収を目安に決めることもあるそうです。
家賃(住宅ローン)や光熱費とは別に婚姻費用を支払う必要がある?夫が出ていき、元の家には妻と子どもが住んでいる。
その家の家賃や光熱費は夫の口座から引き落とされている。
その家の家賃や光熱費は夫の口座から引き落とされている。
といったケースでは、支払われるべき婚姻費用の金額から、実際に支払っている家賃や光熱費の金額を差し引くことになります。
ほかにも携帯代や保険料など、配偶者の口座から引き落とされるものはいろいろあると思いますが、こうしたものは婚姻費用に含まれるわけですね。
ただし、住宅ローンの場合は少し考え方が違うんです。
住宅ローンの支払いは「住居費」としての側面と、「資産形成」としての側面を持っています。
つまり、丸々住居費として扱い婚姻費用から差し引くと、住宅ローンを支払う側が得をし、婚姻費用に含まないとなると、婚姻費用を受け取る側が得をするというアンバランスが生じてしまうんですね。
そこでよく使われる方法が、「婚姻費用を支払う側の年収から住宅ローンの年間支払額を差し引き、その金額を年収として婚姻費用を算定する」というもの。
住宅ローンがある家庭では、婚姻費用の計算がややこしくなりがちなので弁護士に相談するのがいいでしょう。
相手が悪くても婚姻費用は支払わなければならない?
相手が悪くて別居になったのに、それでも婚姻費用を払うというのは納得がいかないですよね。
残念ながら、基本的には理由関係なく、婚姻費用は支払わなければいけません。
ただし、相手に明らかな有責性がある場合は別です。
たとえば相手が不倫をしていて、その相手と同居するために一方的に家を出ていったようなケース。
別居の経緯や理由があまりに不合理な場合は「権利の濫用」となり、婚姻費用の請求が認められないこともあります。
また、そこまで極端なケースでなくても、破綻の原因が請求者に偏っている場合は、婚姻費用の減額が認められることもあります。
ただ子どもがいる場合、子どもの生活費については減額も停止もされないので、当然支払わなければなりません。
ほかに、婚姻費用を減額できる可能性があるとしたら、「相手は働けるのに働かない」というようなケースです。
働けるのに働かないという状態であれば、賃金センサスなどを参考に相手の年収を想定して婚姻費用を調整できることもあるので、話し合いの際に主張するのがいいでしょう。
婚姻費用を払ってくれない場合の「婚姻費用分担請求調停」とは
別居したからといって、相手がスムーズに婚姻費用を支払ってくれるとは限りません。
その場合には、早めに「婚姻費用分担請求調停」を起こしましょう。
なぜ「早めに」なのかというと、婚姻費用は過去にさかのぼって請求することができないからです。
婚姻費用がもらえる期間は別居してからではなく「請求してから」。
そのため、婚姻費用が支払われないのであれば早めに「法的に」請求するほうがいいんです。
ちなみに、調停というと弁護士に依頼・・・と考える人が多いと思いますが、自分で調停を起こすことも可能です。
自分で調停を起こす場合は数千円の支出でできます。
もちろんその分、手続きもすべて自分でしなければならないので時間的にも精神的にも大変になりますが・・・。
弁護士に依頼した場合は着手金と報酬金合わせて40万~100万円程度はかかることになりますよ。
日本法規情報の離婚サポートで相談するのも1つの方法です。
婚姻費用分担請求を無視・拒否はできる?
婚姻費用を請求される側としては、心情的・経済的に「払いたくない」「拒否したい」と考える人も少なくありません。
婚姻費用分担請求の調停を起こされた場合、それを無視したり、拒否したりすることはできるのでしょうか?
結論から言うと、やはり無視したり拒否したりせず、誠実に対応するのが一番です。
もし婚姻費用の請求を無視した場合、話し合いにならないので相手の主張がそのまま通ってしまう可能性があります。
そして、強制執行、給与差し押さえ、ということにもなりかねません。
さらには、婚姻費用のことで夫婦関係がさらに悪化することで離婚調停・裁判も長引くことになれば、結局は婚姻費用を支払う期間が長くなってしまい、支出額が膨らんでしまいます・・・。
変に無視したり逃げたりせず、主張すべきところは主張し、なるべく早く解決するよう動いたほうがいいのではないかと思いますよ。
お互いが前を向いて、新たな人生を再出発できるようにしていきましょう!
クレジットカードは止めてもいい?
夫婦であれば、クレジットカードの家族カードがあるのも珍しくないですよね。
婚姻費用を現金で支払う代わりに、家族カードの支払いを継続するという方法も考えられますが、オススメはできません。
別居に至った経緯にもよるでしょうが、意図的に高額な買い物をされたりキャッシングをされたりするリスクも無いわけではありませんよね。
「クレジットカードを止めると裁判で心証が悪くなるのでは?」と心配になるかもしれませんが、婚姻費用をきちんと支払っているなら問題ないようです。
逆に婚姻費用を払ってもらう側の立場の方は、相手名義の家族カードがあるとしても、むやみに使わないようにしましょう。
生活費として認められる程度であれば婚姻費用として調整できますが、過度に使い込んでしまうと財産分与のあとで使い込んだ金額を請求される恐れもあります。
参考:家族カードについて
さいごに
婚姻費用は、払ってもらう側からしても払う側からしても、スムーズに話し合いができない場合は厄介な問題だな、と感じました。
とはいえ、どちらの立場だとしても、スムーズに話し合いができないのであれば粛々と法的手段をとるのがいいのではないでしょうか。
このページでは婚姻費用にまつわる疑問をあれこれ解説してきましたが、実際の場面ではさらにややこしい計算になることも考えられますから、早めに弁護士さんに相談するのがいいと思います。