「みそしるぼうや」を名乗り、活動している村瀬峻史(むらせしゅんじ)さん。
「発酵」をテーマに、みそづくりワークショップや、みその蔵元など日本文化のつくり手のもとを訪ねる旅の企画・運営をしています。
もともとは農業に関心があったみそしるぼうやさんですが、ある農家さんとの出会いや甘酒をつくったことをきっかけとして発酵に興味を持ち、みそとの縁を深めていったと言います。
「生きる哲学は、菌が教えてくれた」
「自然との調和や循環を考えていきたい」
どうやらみそづくりには、これからの社会のあり方のヒントが隠されているようです。
そんなみそしるぼうやさんに、これまでどんな経験をして、これからお金や経済とどう関わっていこうと考えているのか、聞いてきました。
みそしるぼうや(村瀬峻史)さんインタビュー
インタビュー日:2018年1月22日
いくつかの仕事を持ちつつ、「みそしるぼうや」としての活動を始めた
── 村瀬さんは、みそしるぼうやとしての活動で生計を立てているのですか?
村瀬:
いえ、実はそうではないんです。今はフリーランスといいますか、いくつかの仕事を受け持って生計を立てています。
昨年の6月に会社員を辞め、内省期間を経て、現在のような形になりました。
また、すごくピュアな探究活動として「みそしるぼうや」と名乗り、発酵をテーマにしたワークショップや旅をしたり、日本を愉しむ人を増やす「日本みっけ旅」という企画を運営しています。
みそづくり活動自体は始めてからはもう4年目になるんですけど、「みそしるぼうや」として名乗り始めたのは、2017年に入ってからここ1年くらいの話なんです。
農業に関心を持ち、幅広くアルバイトをしていた学生時代
── では、みそしるぼうやになるまでの道筋について聞いてもよいですか。
村瀬:
僕は愛知県で生まれて、高校まで愛知県にいました。大学は鳥取県で、砂漠化問題と農業経営を学びながら、日本や海外の農家さんを訪問し、お話を伺うことをしていました。
── 最初に自分でお金を稼いだときの記憶ってありますか。
村瀬:
高校のときはアルバイトが禁止だったんですけど、「夏休みだけだったらバレないだろう」と近所のラーメン屋で働いたのが最初だった気がします。
大学では本当にいろいろなアルバイトをして。大学が鳥取県だったので、ひたすらラッキョウ畑の草を抜いたり、チャイニーズパブでボーイをしていたこともあります。
他には、人権学習センターやNHKで報道ニュースの取材もお手伝いしてましたね。
はじめて甘酒を作ったときに感動した「生きる菌の働き」
── 大学の時点で、発酵にハマっていったわけではないんですね。となると、いつどこで発酵に出会ったんでしょう。
村瀬:
発酵との出会いは、大学を卒業してからですね。
大学卒業後は「大地を守る会」という農産物流通の会社でバイヤーとして働いていました。
はじめて担当させてもらった農家さんが「森のような畑にしたい」と仰っている方で、ある日顕微鏡で撮影したにんじんの細胞写真を見せてもらったことがあるんです。
それがとても衝撃的で。にんじんの細胞に土壌中の菌がびっしりと共生していたことにとても驚きました。
にんじんは菌に栄養を集めてもらい、菌はにんじんから栄養をもらうという、相互関係のある自然界の助け合いを知りました。
また、社会人になってから自分で初めて甘酒をつくったことがあります。
炊飯器でつくったのですが、15分おきに中の甘酒をのぞいていると、固形物がだんだんと変化していくのが見えて。
── どろどろに。
村瀬:
そうですそうです。その頃、僕は人生のバイブルにもなった寺田本家さんの『発酵道』という本に出会い、感銘を受けていました。
固形物がどろどろに変化していく様子を見て、「これはまさに、本の著者である寺田本家さんが言っていたことだ!」と思って。
麹(こうじ)菌たちが心地よい温度になると本能のままに動き出して、お米をどんどん液体に分解している。
そんな光景を目の当たりにしたとき、「その場が心地よければ自ずと発酵する」という、それまで思考段階にあったものが体幹に落ちたというか。目の前で菌たちが働いている状態って、すごいなあと。
── なるほど。変化していくさまを目の当たりにし、感銘を受けたわけですね。
村瀬:
それが今から4年前くらいのできごとです。
そのきっかけもあって、大地を守る会メンバーで農家さんの耕作放棄地を借りて、大豆を育てて味噌を仕込む本格的なみそづくりに携わるようになりました。
実際に土を耕して、大豆を埋めて、草をとって、収穫して、みそを仕込んで、ということを参加者のみんなと一緒にやっていくうちに、みそづくりがすごく楽しいなと思うようになったんです。
「そっちのカビ、どう?」。「ご近所みそWS」に見る、コミュニティとみそづくりの関係性
村瀬:
僕が個人で初めてみそづくりワークショップをやったのは、今住んでいる武蔵小山エリアで「ご近所みそWS(ワークショップ)」という企画を開催したときです。
コミュニティとみそづくりって、リンクするところがあるんです。
みんなでみそづくりを一緒にしたあと、各家庭にみそを持ち帰って発酵を待っている間に「そっちのカビどう?」みたいな会話が生まれたりするんですね。
そんなふうに、みそという愛着のある対象をみんなが共有していることで生まれるコミュニケーションや仲間意識があって。
そこから、さらに発酵の深みを探求したくて、みそづくりワークショップや、発酵の旅を企画するようになりました。
100年の時間軸だけで考えるのは、けっこうさみしい
── 昨年に一度会社を辞めて内省期間があったと冒頭でお聞きしたのですが、その期間は具体的に何をしていたんでしょう。
村瀬:
会社を辞めてからの内省期間は、「今、自分はどういう感覚なんだろう」「どういう時間を過ごすとき、自分は心地よいのだろう」と考えてました。
どんどん自分の中に深く入っていく、一休さんみたいな時間を設けたんです。
── 内省していた期間が終わったとき、どんな気づきがあったんでしょう。
村瀬:
それまで僕は、目の前の夢や課題解決をずっと追い求めてきたことに気づいたんです。でも、もっと大きな時間軸で考えてもいいのかもと思い、内省期間を経て視野が広がりました。
まず、自分のあり方として、「90歳、100歳のおじいちゃんになったとき、どういう自分でいるのが一番気持ちいいのだろう」と考えました。夢よりも大きな未来志向、みたいな感じです。
もうひとつ、自分の中で「古代感覚」と考えているものがあるんですけど。
── 古代感覚。
村瀬:
普段何気なく生活をしていて、なぜか惹かれてしまうものってあると思うんです。
僕の場合は、「発酵」「農業」「土」「土に近い人」「神道」「仏教」などのテーマに興味を惹かれてきました。
たとえば、なぜ高校生のとき砂漠化に興味を持ったのだろうと考えたとき、もしかすると生まれてからのわずかな経験だけでなく、脈々と受け継いできた遺伝子や価値観が影響しているのではないか、という仮説を持ちました。
その当時に友人から「集合的無意識」という心理学の概念を教えてもらい、なんだか納得したことを覚えています。
古来から脈々と続いてきた自然の営みの歴史は、人ひとりの100年近くの人生より、何百倍も何千倍も長いですよね。
その降り積もるような長い時間軸の中に、小さな自分を感じることを「古代感覚」と呼んでいます。
そして、短期的な成功や失敗にとらわれず、もっと一瞬一瞬を満たされるように生きたい、と思うようになりました。
村瀬:
このように考えを深めていくと、バラバラだった経験の一つひとつがつながる感覚があって、なんとも言えない安心感を覚えました。
なので、自分が生きている人生の時間軸でだけで物事を考えてしまうのは、けっこうさみしいのかもしれないと感じています。
今でも「信頼関係をベースとした稼げる農業の仕組みをつくりたい」とか、やりたいことはあるのですが、もっと大きな時間の流れにある自然と人間が循環する社会に、自分の意識を向けていきたいなと。
そのうえで、根本に向かう手段としての仕事とか、お金を稼ぐことを位置づけていきたいなと考えるようになったのは、すごく大きな転換点だった気がします。
みそしるぼうやから見える、都会的な経済のあり方とは
── 今後の目標や展望は何かありますか。
村瀬:
今は、生きていくために必要なものがすべてお金に換算される経済ではなく、信頼ある拠り所が多いほど生活の豊かさを実感できる生態系に関心があります。
しかも、それが東京のような都会でも成り立つことってなんだろうなと。
たとえば森が菌のネットワークを通して資源を共有し合っているように、自分の使ったお金がつながりある誰かの生活を支える元手となって、また地域の中で新しい取り組みが生まれ、喜びを共有しリスクを分散させながら、次世代を育んでいく。
そのような温かいお金と関係性が連鎖していく経済に憧れがあるんだと思うんです。まだまだ具体的な展望は見えているわけではありませんが。
── そのような考え方が、どういうふうに「みそしるぼうや」としての活動につながってくるんでしょう。
村瀬:
自然界には社会のヒントがたくさん詰まっていると思うので、これからも農家さんや蔵元をまわったり、菌を観察したり、みそをつくったりというように、自分の一次情報や原体験を大切にしていきたいです。
そこから得られた価値観をもとに、自分の生活を支える経済や社会に落とし込んでいきたいなと。なので、「みそしるぼうや」の活動は自分自身を探求していく手段なんです。
日本はもともと、人間も自然の一部として存在していたけれど、明治時代に神社が壊され、それまで大事にしていた森が減っていきました。
同時に敬い祈る文化も減り、人間と自然が少しずつ分断されていった歴史があることを知りました。
でも、自然と人間が同じ生きものとして共生するための経済やお金の仕組みって、きっとあると思うんです。土に還る経済といいますか。
そう考えると、お金は関係性をうまく繋いだり、仕組みをぐるぐると回させてくれる素晴らしいツールですよね。
「みそしるぼうや」では経済的な成功よりも、いかにピュアでいられるかを大事にしていきつつ、そんな問いを深めていきたいなと考えています。
そして、大好きな味噌汁を飲むとき、暮らしの中にある自然を感じていきたいです。
【編集後記】インタビューを終えて
「はじめて甘酒をつくったとき、生きる菌の働きに感動した」と少年のように語るみそしるぼうやの純粋さは、まさに「ぼうや」・・・。
都会はいわば、お金という対価を求めながら暮らし、働く場所。
だけど、少し俯瞰して考えてみると、必ずしも都会に住まなくても、生きていける。
生活コストを下げて暮らしていける、自分によりフィットする別の場所や地域で暮らしてみてもよい・・・。
そんな選択肢も考えてみたくなるお話でした。
発酵に関する探求を続けていく「みそしるぼうや」の活動が、これからどんなふうに歩みを進めていくのか、楽しみです。