金銭トラブルを含む様々なトラブルの相談窓口として、大きな信頼を得ているのが弁護士という存在。
だから弁護士さんって、お金に対してはシビアで、かつ鋭い知見を持っているという印象です。その反面、士業は高収入で1,000万プレーヤーも多く、裕福な暮らしをしているひとが多いイメージがあります。
日頃から、人生の一大事の悩みを持つ依頼者と向き合う弁護士さんは、お金に対してどのような価値観を持っているのでしょう?
今回のインタビューでは、四ツ谷で弁護士として働く小寺さんに「弁護士業界の金銭事情」と「世間のお金の悩み」についてお聞きしています。
結婚も出産も転職も経験していない私ですが、これから人生のライフステージに直面したときに思い出したいお話ばかりでした。
小寺悠介さんインタビュー
インタビュー日:2017年11月22日
弁護士の収入は働き方によって千差万別
── はじめに自己紹介をお願いします。
小寺悠介(以下、小寺):
四ツ谷のKODAMA事務所というところで弁護士をしています。
1987年生まれ、東京都杉並区の出身です。今年で弁護士は4年目で、取り扱っている事件は刑事事件と民事事件(離婚や男女問題が多い)。あとは、ベンチャー企業の顧問弁護士もやっています。
── いろんな分野に携わられているのですね。弁護士の雇用形態は企業内弁護士や行政内弁護士など様々だと存じますが、小寺さんはどのような雇用形態なのでしょう?
小寺:
僕は、事務所から固定の報酬をもらっているわけではなく自分で事件を受任して弁護士業務を行なっています。今の事務所にいるメンバーは、基本的に各自で事件を受任していくスタイルです。場合によっては、事務所内で一緒にやる場合もありますけれどね。
── なるほど。そうなると、働き方としてもたとえば弁護士の仕事だけでなく、副業のようにして他の仕事もできるということでしょうか?
小寺:
そうです。なので僕は、弁護士になってからずっと出身である上智大学法科大学院で講師もやったりしています。
── いわゆるドラマや漫画に出てくる弁護士さんは「弁護士一筋!」という印象が強いのですけど、今は弁護士さんの働き方も様々なんですね。
小寺:
国の方針で、ロー・スクールを増やして弁護士の数を増やそうという政策があったんです。
だけど、現在の日本では刑事事件も民事事件等の訴訟事件は弁護士の数に対して十分な仕事量となっていません。新しい分野の開拓も進んでいるとまでは言えず、それゆえ今は弁護士の平均所得も下がっていて、弁護士=高収入の構図も成り立ちにくくなっているのが現状ですね。
── 弁護士の働き方の多様化も、そうした社会的な背景があるのかもしれませんね。実際私も、弁護士=1,000万プレーヤーの印象がとても強くありました。
小寺:
収入は本当にひとによって千差万別ですよ。また、収入という表現が売上なのか、経費などを差し引いた所得のどちらを指すのかによって、1,000万円という意味合いはだいぶ違うことになりますね。
売上が多い弁護士というのは、まず大手の顧問先があったり顧問先が何十社もあったりするというのがあります。たとえば、単純計算ですが、100社と月5万円で契約している事務所があったら月500万円の売り上げがあるわけじゃないですか。そうすると顧問料だけで年間6,000万円の売り上げがあることになります。
もっとも、そんなに多くの企業と顧問契約を締結しているとなると、普通は弁護士や事務局などの人員に多くの経費をかけることになるので、所得という観点ではどうなのかという視点も大事かなと思います。
あとは、他の弁護士から見ても「この分野ではこの先生!」と言われている弁護士には多くの事件が来ていますね。他の人には簡単に真似できない特殊技能を持っていると、弁護士からの紹介も多くあります。
自己肯定感の低さが職業選択につながった
── 小寺さんが弁護士を目指した経緯についてお聞きしたいのですが。弁護士を志したのはいつ頃からなのでしょう?
小寺:
高校生くらいですかね。中学生の頃は医者になりたいと思っていたので。
── へぇ、医者ですか。医者とか弁護士って、正義感の強いイメージがあるんです。小寺さんも正義感のもとで職業選択した意識ってありますか?
小寺:
正義感が芽生える瞬間って、テレビを見てとか固有の体験を通してのことが多いじゃないですか。ドラマを介して弁護士が社会正義の仕事に見えたりとか、弁護士や医者に人生を救われたとか。
でも僕は、どの職業もなにかしら世の中の役には立っていると思っていて。弁護士っていう仕事が社会正義を語る上でわかりやすいだけで、特別なわけではないと思っていたから、正義感のもと医者や弁護士に惹かれたというわけではないんです。
ただ、医者や弁護士になりたかったというのは、「資格を持って手に職をつけたい」という思いがあったからですかね。
── 資格を持って手に職を。その意識はどこからきたのでしょう。
小寺:
どこからですかね(笑)。
ひとつ、「自分ができないやつ」っていう意識は子どもの頃からあったのですけど、20代で資格を持ちたいと思ったのにそのコンプレックスがあったかもしれないです。
── できないやつ。自己肯定感の低さのような。
小寺:
僕は中学受験をしているんですけど、一番行きたいところに行けなかったし、部活もバスケットボール部だったんですけどレギュラーじゃなかった。大学受験も第一志望の大学には行けていなくて。
そういう、自己肯定感の低さが手に職を持つことを目指した原動力だった気がします。
── その自己肯定感の低さは今でも持たれていますか?
小寺:
司法試験に合格したことによって、昔よりかは自己肯定感は高くなったと思います。子どもの頃は大人しかったし、本当に人前に出るのが恥ずかしくて、嫌で仕方がなかったんです。
でも、弁護士になってから会うひととそれまでの友人には「〜型でしょ?」と言われる血液型が全然違っていて。血液型でそのひとの性格を当てはめたがるのは日本人特有ですけど、昔はA型ぽいと言われていたのが弁護士になってからO型っぽいと言われるようになりました。
── 「O型はおおらか」みたいなイメージがありますけど、小寺さんもそういう印象を持たれるということですか?
小寺:
おおらか、というか落ち着きがあるというか。
意識せずともそう見られるようになったは、僕自身の自己肯定感が上がったからだろうなと思っていて。そのきっかけとなったのが司法試験合格だったんだろうな、ということです。
弁護士になるまでのお金事情
── 小寺さんが弁護士を目指された背景に、子どもの頃からの「資格を持ちたい」「手に職をつけたい」という思いがあったとのことですが、子ども時代から意識的に勉強されていたりしたのですか?
小寺:
人生で一番勉強したと思うのはやっぱり大学院時代なので、子どもの頃は人並みにですかね。中学受験をしたと言ったけれど、それは周りの子が塾に通っていて自分もそれに影響されて、その延長線上で受験したという感じなので。
── さきほど子どもの頃は人目を気にしていたとおっしゃっていましたけれど、周りの子の欲しいものとかにも影響されていたのでしょうか。
小寺:
欲しいものも影響されていました。流行っている漫画やゲームはひととおり買ってもらっていたし、自分も流行り物を持っていたかったというのは覚えています。
小学生の頃にミニ四駆、遊戯王、ポケモンなんかが流行ったんですけど。「あれがないとみんなと遊べないんだ!」と親に言って、買ってもらっていましたね。
── ゲームや漫画が好きな少年時代だったのですね。
小寺:
お年玉もそこにつぎ込んでいました。ゲームは最近はあまりやらないけれど、漫画は今も好きですよ。少年誌はすごく読み込んでいるし、ジャンプとか未だに毎週買ってます。
── 欲しいものをご両親に買ってもらえていたとのことですが、小寺さん自身が自分でお金を稼ぎ始めたのはいつからですか?
小寺:
高校まではバイトもしていなかったので、大学生からですね。大学生の頃から塾講のインターンを始めました。受付業務から電話がけ、生徒対応などをざっくばらんにやっていたんですけど、そんなに働くことに忙しいとか大変だとかのマイナスなイメージはなくて。
今、弁護士をやりながら法科大学院の講師をやっているのも、ただ僕自身が教えることが好きだからやっているんです。それは大学院時代時から継続してやっているのですけど。
── 大学院時代にアルバイトって結構ハードな印象です。
小寺:
僕に限らないと思うんですけど、現在の弁護士って1年目から大学や大学院の奨学金の返済などをしている人が多いんですよね。司法試験に合格するためにダブルスクールしたり、院に行くために奨学金を借りたりするので。
僕自身も奨学金を借りていたので、今も一定額の返済をしています。金額としてはそこまで大きくないのですが、出来れば早めに完済したいですね。
── なるほど、弁護士になる前にものすごくお金がかかっているんですもんね。
小寺:
司法試験に受かってからもお金がかかった世代もあって。
僕は弁護士66期なんですけど、その年はとにかく悲惨でした。司法試験に受かるとまず、弁護士として働く前に1年間、東京または地方で司法修習生としての研修期間があるんです。
僕の年は、その1年間無給で研修を受けないといけない年だったんですけど、修習専念義務があったのでアルバイトも許されなかった。
── えっ、じゃあどうやって生計を立てていくんですか?
小寺:
貯金を切り崩すか、お金を借りるかの二択を選ぶしかなかったですね。
僕はそこで借りるという選択肢を取って、国から月約20万を1年間借りていました。だからそこでも借金が増えて行くことになったんですけど、周りには金銭的な理由で修習に行かないという人もいましたね。そのあとの年度からはアルバイトは一定の範囲で許可され、今年(71期)からは月13万5千円ほどもらえる体制になりました。
思えば、その当時はいろんな出費をどうやって抑えてやりくりするかを常に考えていたり、弁護士の登録費用をそこから捻出したりと大変でした。今でこそ弁護士4年目が終わりかけているので収入も安定していますが、そのときのやりくりの大変さ、お金の重要性を知っているので、今も無駄遣いしないように気をつけています(笑)。
夫婦間のリアルな金銭問題
── 弁護士さんはお金で苦労しているひとが多いというのは驚きでした。実際に金銭問題などに多く関わられていると思いますが、小寺さん自身が弁護士をされているなかで学んだお金の使い方はありますか?
小寺:
僕は離婚案件に多く携わっているんですけど、結婚して「自宅のローンが残っていると大変」と、この仕事を通して改めて思うようになりました。
── ローンが残っていると大変なことってなんでしょう?
小寺:
売りたくても売りにくい、というトラブルですかね。
35年ローンなんかを組んだあとに離婚をしたいと思っても、家がオーバーローンになるせいで売っても赤字になるということがあります。ただ、家を買う当時は離婚するなんて思っていないことがほとんど。いざ離婚となったときにどういった解決方法が考えられるか、早めに弁護士に相談した方がいいと思います。
── 今、小寺さんは離婚案件に多く携わられているというお話がありました。その上で、小寺さん自身は結婚して子どもが欲しいということですが、普通に生きていたら知り得ないドロドロした事情を知ってもなお、結婚や子育てに目が行くのは意外です。
小寺:
たしかに、離婚案件をやっていると「結婚したくなくなりませんか?」とよく言われます。
でも、結婚も離婚も十人十色ですし、相談者にとって一概に離婚は後ろ向きなことだけではないこともあります。逆に色んなケースを見ているからこそ、自分自身の結婚や子育てに対しても特にマイナスな気持ちになることはありませんね。
── リアルな社会問題を知っているというのは、選択肢を狭めるのではなく広げる可能性があるのですね。
小寺:
僕の周りは弁護士同士での交流が盛んなので、そこで色んなことを相談してそこで知見を得たりもします。
もちろん、他人の人生の一大事に向き合っているからストレスフルな仕事だなと思うこともあるし、案件によっては眠れなくなるときもあります。
でもリアルな社会問題、人生がかかった悩みを抱えるひとを相手にしているからこそ、感じることができる喜びもあります。社会的な病理にかかっているひとの悩みを取り除いて、前向きになれるまでの過程に携われる仕事ってあんまりないと思うし、それを間近で見れるというのは大変である反面嬉しいことです。
長期的にやりたいことがあるなら、収入土台をしっかり持つ
── 弁護士としてだけでなく、ロースクールの講師もされている小寺さんですが、今後挑戦してみたいことはありますか?
小寺:
なかなか人生プランって決められないタイプなんです。いつまでにこうなっていたいとか、あんまりなくて。
弁護士としてどうなっていきたいというよりは、弁護士の資格を切り口にいろんな分野に挑戦していきたいですかね。
── 弁護士資格を切り口に、法の世界以外でも活動したいということですか?
小寺:
そうそう。実際に今は、子供の頃から好きだった漫画やアニメの分野で活動もしているんです。
── 漫画やアニメが仕事に?
小寺:
コンテンツを僕が作っているということではなく、弁護士という資格を入り口にIOEAという団体に趣味兼仕事として参加しています。
IOEAは国連みたいな互助団体で世界のオタクイベントが一同に集まる協会なんです。 3年ほど前に設立されたんですけど、設立時の法的な部分に僕が関わりました。
IOEAに加盟している団体は世界中でイベントをやっているから、僕もメンバーとしてドイツやアメリカ、シンガポールなんかに行ったりしています。
── たしかに、ベンチャーとかなにか新しいことを始めるときに、法的なことをできる人材がいないという問題はよくあると思います。小寺さんはそこに自分の専門性を活かすことで、趣味の分野に介入して行かれたのですね。
小寺:
弁護士という社会的信頼があるのは話を聞いてもらえる上で大きいと思います。僕は、興味のある分野にはどんどん参加したいタイプなので、弁護士資格を活かして人生を充実させていきたいですね。
もちろんやりたいことをやるためには、日々の生活の土台をしっかり持っておかないといけません。よく起業家やフリーランスの方に「こういうことがやりたいんです」という相談をされるんですけど、基本的な収入プランがしっかりしていないひとを見るとリスクが大きいなと感じます。
やりたいことをやるとき、それが0円の出費ならいくらでもやっていいんです。でも食費や家賃といった生活費がかかってくるから日々の出費が0円なわけがない。持続的な収入プランを持っていないと、やりたいことも長続きしないですよね。
僕の場合はその収入の土台が弁護士業なので、これからも日々の仕事をしっかりとやっていきながら人生を充実させたいな、と思っています。
インタビューした感想
弁護士さんは、1年目から1,000万プレーヤーで裕福な暮らしをして・・・という印象を持っていたので、弁護士になるまでにお金に苦労してきたひとの多さに驚きました。
多くの弁護士さんが社会問題に冷静に対処できるのは、知識はもちろんのこと自分自身もお金で苦労をしているからこそ、シビアな目を持てるのかなと今回のインタビューを通して思います。
小寺さんの「土台となる収入をしっかり持つこと」のお話は、とても現実的なアドバイスに感じました。これからやりたいことがあるひとには、きっととても参考になるお話だと思います。
私自身もこれから人生でたくさんのやりたいことを見つけていくと思いますが、都度自分の収入源と照らし合わせながら、「今ある土台は長期的に持続可能かどうか」を考えたいです。