誇れるものを仕事にしたかった。ダンサーUNAさんの金銭事情とダンスへの想い

ステージに立つ仕事って、素敵な衣装と大勢のお客さんに囲まれて、とても華やかな印象があります。

「ダンサー」という職も、その華やかな仕事のひとつというイメージです。

だけど、テレビのドキュメンタリー番組なんかで放送されるアイドルやアーティストの「ステージの裏側映像」のようなものを見てみると、一概に華やかとは言えない努力と生活があるのも事実なのかもしれないと思います。

ダンサーのUNA(ユウナ)さんは、ダンスの専門学校を卒業後、現在はプロとして活動中。

「ダンサーって華やかな世界の印象があるのですけど、お金の事情はどうですか?」

今回は、UNAさんにご自身の金銭事情と、ダンスへの想いについてお聞きしました。

ダンサー・UNAさんインタビュー

インタビュー日:2017年10月21日(土)

UNAさん

お給料が振り込まれる日は予測不可能

── UNAさん、取材受けてくださりありがとうございます。今日はお仕事だったんですか?

UNA:
今日はダンススクールのアシスタントの仕事をしてきました。

── ダンスの世界ってバックダンサーや講師、振付師・・・いろんな仕事があるというのは知っているんですけど、ユウナさん自身は今はなにをされているのですか?

UNA:
今は、バックダンサーと振付師のアシスタント。それとダンススクールのアシスタント業という形でアルバイトをしています。

アルバイトをしているダンススクールは私が卒業したスクールの姉妹校で、ニューヨークのブロードウェイダンスセンターの先生が生徒に教えに来てくれるので、私はその先生の通訳とアシスタント業務をしています。

── プロのダンサーとして活動しながらアルバイトもされているのですね。

UNA:
今年の8月に、もっといろんな世界のダンスを見たいと思って1ヶ月ほどヨーロッパに行っていたんですけど、そのタイミングで一旦アルバイトも変えたんです。渡航前は飲食店でアルバイトをしていました。

なにかしらアルバイトをしないと、ひとりで東京で生活するのが大変なんです。売れっ子じゃない限り、ダンサーって収入が全然安定しない職業なので。

unaさん

── それは毎月来るお仕事の量も種類も全然違うから、ということですか?

UNA:
それもあるんですけど、お給料がいつ振り込まれるか予測不可能なんですよね(笑)。

たとえば、私は今年の6月にひとつアーティストさんのバックダンサーをやったのですけど、そのお金はまだ振り込まれていません。

普通の会社員だったら想像できないと思いますけど、そういうことが頻繁にあるのでお金に対してはバイトを並行していないと安心できないんです。

ダンサーという仕事はご存知の通り幅が広くて、コンテストで踊って一発当てる!というダンサーもいれば、私のようにバックダンサーやインストラクターの仕事で堅実に稼いでいるダンサーもいます。

いろんな働き方があるけれど、ダンス業界自体は認知度が上がり需要過多という現状もあって、安定した収入があるひとなんて本当に少ないんじゃないかと思っています。

── シビアな世界なんですね・・・。

UNA:
私はダンスの専門学校を出ていますけど、同期も半分くらい今はなにをしているのかわからないです。卒業してすぐに仕事がたくさんあるひとなんていないから、大抵はバイトをメインにダンスの仕事をスタートさせていくんです。

それをどうにか本業の、ダンスをメインのワークスタイルにしていかないといけないのですけど、その方法は私もまだ模索中。ダンスの仕事を最優先に受けつつ、生活と相談しながらバイトもしているという感じです。

専門学校時代にバイトするようになって親のありがたみがわかった

── UNAさんのダンスの入り口を知りたいのですけど、ダンスを始めたのはいつからですか?

UNA:
高校生からです。

愛知県豊橋市の出身なんですけど、ダンス部の強豪校がある高校に進学してその高校のダンス部に入りました。中学生の頃に高校見学で見た部活動紹介でそのダンス部を知って、「入部したい!」と思って。高校生になると同時に入寮して、ひとり暮らしをはじめたんです。

── 高校から親元を離れていたんですね。初めてのひとり暮らしはどうでしたか?

UNA:
母が毎月キャッシュカードにお金を振り込んでくれたから金銭面で苦労することはありませんでした。だけど、寮生活が本当に厳しかった思い出があります。

カトリックの高校だったのですけど、毎朝6時半に音楽が流れて起こされて、礼拝をするんです。そのあとは掃除、ダンス部の朝練、部活後は学習室で2時間勉強して、また掃除。

── 掃除、多いですね(笑)。

UNA:
はい(笑)。だけど、周りの子たちは「部活で疲れて、帰宅したら寝るだけになっちゃう」と言っていた子もいたので、今思えば厳しい環境下にいたのはラッキーだったのかもしれませんね。

unaさん

── 強豪校のダンス部に入部されたUNAさんですが、もともとダンスの経験はあったのですか?

UNA:
いえ、ダンスはまったくの初心者でした。だけど、初心者だったからこそ新しいことを真っ白な状態から吸収できたと思うし、部長になって部のみんなと大きな舞台に立つこともできた。

だから私は、ダンスに関しては「情熱があれば初心者でも上達できるよ」ってことを、初心者でダンスをはじめるひとにはたくさん言ってあげたいんです。

── 強豪校のダンス部だったらあまり遊んだりする暇もなさそうですけど、学生時代のお金の思い出はありますか?

UNA:
高校は寮だったので、本当にお金を使うのは衣装代と朝ごはん代くらいだったんですけど、唯一はまっていたのが関ジャニ∞ですかね。

私、高校生の頃ニュージーランドに1年間留学しているんです。海外生活自体は刺激的ですごく楽しかったんですけど、同時に日本の文化も恋しくなっちゃって。海外にいたのにジャニーズにはまって、ファンクラブ会員になってコンサートも行きました(笑)。

── 高校よりも前、小・中学生の頃のお金の思い出ってありますか?

UNA:
思い出というか、おこづかいに関して「周りの子に比べて少ないな」という不満を親に対して持っていた記憶があります。

小学生の頃はおこづかいが月500円だったし、中学生の頃は月1000円でした。友だちは遊びに行くたびにおこづかいをもらっていたので、それと比べていたんだと思います。

── たしかに、そのくらいの時期っていちばん周りの子と自分をわかりやすいものさしで比べてしまいますよね。

UNA:
だけど、専門2年生の頃からバイトをして親とお金に対する意識が変わりました。はじめて自分でお金を稼いでから、「お金を稼ぐことってこんなに大変なんだ」って実感して、親には以前よりずっと感謝の気持ちを持つようになりましたね。

自分は好きなことをたくさんやらせてもらってもいたし、なにか恩返しをしたいと思うようにもなりました。今のところ、一番の恩返しはダンスで売れることかなって思っているんですけど。

unaさん

ダンスに出会って、自分が誇れるものができた

── 現在は、どんなことにお金を使われているんですか?

UNA:
今は、ファッションとアートですかね。洋服を買うのも好きだし、インスピレーションを得られる場に赴くことも好き。「出会う」ことを大切にしたいなって思っていて。

── 出会うことを大切にしたい、というのはなぜでしょう?

UNA:
ダンスのお仕事をもらうとき、人脈でお仕事をいただくことが多いからですかね。事務所に所属しているダンサーもいるけれど、私はフリーで仕事を受けているので「信頼」が大前提にあることってとても大切なんですよ。

それに、ダンスはひとりだとできません。一緒に踊っているひと、舞台をつくっているひとたちとの信頼関係がないとお互い気持ちよく仕事ができない。

だから、出会ったときの挨拶、印象をすごく大切にしています。そういうことは、高校生のときのダンス部で学んだんだと思います。

── UNAさんにとって、高校生活は大きな転機だったんですね。「大学に進学しよう」と迷ったことはないのですか?

UNA:
まったく迷わなかったわけではないです。

それまで、自分って勉強もできないし特別な才能もないと思っていたから、誇れるものがあるひとに憧れていて。だけど、ダンスをやってから私は生まれてはじめて「自分が誇れるものができた」と思えました。

だから厳しい世界だとわかっていても、ダンスをやっていこうと思えたんです。

unaさん

UNA:
そういえば高校のダンス部では、現代舞踊とコンテンポラリーをやっていたのですけど、振りから衣装から音楽までを全部学生で担当していたんです。

── へぇー!学生主体の作品づくりだったんですね。

UNA:
その当時はそれが「普通」だと思っていましたけど、そこで「つくる」経験をしたことが今の財産になっているなぁと実感していて。専門2年生のときに卒業公演という専門で学んだことを作品として披露する場があったんです。

私はその機会に自分で群舞作品をつくりました。22人ダンサーをつかった作品づくり。それを、ある有名な振付師の方が見てくれて、舞台が終わったあとの休憩の時間に会いに来てくれたんです。

その方は、「とてもよかった」と感想をくれたんですけど、それがきっかけで今はその方のアシスタントをさせていただいています。

── 高校、専門時代の経験が今のUNAさんの活動に繋がっているのですね。

夢は口に出すことで近づくことができる

── UNAさん自身がこれからダンサーとして目指していきたいことはありますか?

UNA:
今言ったとおり、演出や振付け、コンサートの総合演出をする道でなにか作品を残していきたいという思いがあります。ダンスをすることはもちろん好きだけど、やっぱりずっと踊り続けられるわけではないから。

不思議なもので、「やりたい」と口に出すだけで、夢って叶う確率が高くなったりするんです。私はひとに会うたびに「演出の仕事をやっていきたい」と言っているので、最近はそっちの方向のアシスタントのご依頼も増えています。

── 初対面のひとにも物怖じしないんですね。

UNA:
本当は結構人見知りなんですけど、「やりたい」と意思表示することについては意識的にそうしているというよりかは、本当にやりたいから口に出ちゃってるという感じですね(笑)。

だけど、話すことってとても大事で、言い続けていると「ああ、この子はそういうことがやりたいんだ」って覚えてもらえるじゃないですか。

unaさん

── たしかにそのとおりですね。逆に、これから夢に向かって行く中で抑えたい出費とかありますか?

UNA:
本当に浪費家なので、正直節約は向いてないかなって思うんです(笑)。お金の悩みだと、先ほど「出会う」という話があったじゃないですか。

── はい。インスピレーションを得るためと信頼関係のために出会うことを大切にしたい、という話ですね。

UNA:
うん、出会いたい。出会いたいんだけど、でも、ひとと出会うってお金がかかりますよね。

バーで一杯飲んだだけでは聞けないお話もあるし、海外も好きだけど行くのにお金がかかる。でもダンサーの世界は人脈がとても大切だから「出会う」「信頼関係をつくること」にかかるお金はなるべく惜しみたくない。そこはお金と相談かなって思います。

── 最後に、UNAさんにとってダンスってなんなのでしょう?

UNA:
壮大な質問ですね。

ダンスはなんでしょう、私のパッションそのものですかね。いちばん情熱を注げるものだと思います。情熱に関しては、先月訪れたドイツでも一度ハッとさせられて。海外のダンスって本当に表現が豊かだなって思って、とてもいい刺激になりました。

日本人は単調なことが得意じゃないですか。ルーティンとか、毎日電車が遅れないのもそうで、それはいい面と悪い面があるんだけど。私は、情熱を注いでいるダンスに関しては単調であってはいけないと思っています。

ダンスに対してはいつも注意深く、そしてパッションを最大限に表現できるように、自分自身がこれからも「たくさん出会うこと」「勉強すること」に励んでいきたいです。

unaさん

インタビューした感想

ステージに立つ仕事は、予想通りハードな金銭事情がありましたが「お給料が振り込まれるのが何ヶ月も先」という話は衝撃的でした。

厳しいダンス業界に身を置きながらも「自分が誇れるものだから」とダンスに真っ直ぐなUNAさんの姿勢には学ばせてもらうことがたくさんあったように思います。

とくに「夢は口に出すことで叶う確率が高くなる」という話は本当に真理だと思いました。言わなければ誰も自分の夢に気づいてくれないけれど、口に出すことで好転する確率があるなら絶対行動したほうがいい。

夢を語るのはタダなんだな、とハッとさせられた筆者でした。

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この記事を書いた人

編集者・ライター。1995年生まれ、秋田県能代市出身。株式会社Wasei「灯台もと暮らし」編集部。野球しながら植物を育てています。