気象予報士・片山美紀さんインタビュー「貯金は、自分で選んだ道に誇りを持てるようにする手段」

株式会社ウェザーマップで気象予報士として働く片山美紀さん。

大学卒業後に2015年3月まで、NHK富山と和歌山県でアナウンサーとして働いていました。

私は、大学在学中に片山さんと東京で出会い、2016年4月から再び東京で仕事を始めたというので、会いに行きました。

気象予報士として、まだまだ駆け出しだという片山さん。引っ越しが多かったという今までの暮らしから、仕事の目標まで伺いました。

気象予報士 片山美紀さんのインタビュー

インタビュー日:2016年9月20日(月)

片山美紀
ウェザーマップ|気象予報士 片山美紀紹介ページ

気象予報士ってどんな一日?

── いつもは友人なので、“みきてぃ”と呼んでいるのですが、今日は気象予報士・片山美紀さんとしてお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。

片山美紀(以下、片山):
はい、よろしくお願いします。

── 最初に自己紹介をお願いできますか。

片山:
現在、ウェザーマップという会社で、気象予報士としてテレビ(TBS)やラジオ(JFN)、それからネット動画(Yahoo!Japan)で天気の解説をしています。

それからTOKYO MXテレビのテレビ局へ行って、その日の天気の原稿を書かせてもらうお仕事もしています。

── 気象予報士という仕事に興味津々なのですが、一日の仕事はどんなスケジュールなのでしょうか。

片山:
朝、早い日だと2時に起きて3時に出社します。
オフィスで天気図を解析して、いろんな天気予報の絵図のうち、何をどういう順番で画面に写して、どう解説するかを考えて、原稿を書きます。

出演用のメイクや衣装に着替えたあと、朝5時にテレビの1回目の放送をします。

その後にラジオで電話中継をしたり、インターネット配信用の動画を撮り、最後にもう一度テレビ出演をして天気の解説をします。そこで、一日のお仕事としては終わりです。

── 朝の3時出社ということは、夜は何時くらいに寝るんですか?

片山:
夜7時くらいですね。

朝のサラリーマンの出勤時間と、私の退勤時間が重なるようなイメージです(笑)。

── じゃあ夜遊びに行こうとか、そういうことはできない?

片山:
できないですね。

── 天気によっては、警報とか注意報が発令されると緊急で招集がかかったりするんでしょうか。

片山:
はい、よくあります。夜中に台風が上陸するという予報の日だと、夜勤になることもありますね。

夜の10時くらいに出社して、朝の5時くらいに帰るとか。睡眠時間を取るのが大変ですが、今はだいぶ慣れました。

人の命を救いたくて気象予報士になりました

── 学生時代、アナウンサーになりたいという話は聞いたことがあったのですが、気象予報士という資格を取るに至ったのは何故なのでしょうか。

片山:
富山でいろいろな人を取材したり、ニュースを読んだりしているうち「人にとって生きるために一番大事なことって何だろう」と深く考える時期がありました。

災害や、悲しいニュースを読む機会が結構あったからかもしれません。

夢のあることとか楽しいことを伝えて、見ている方の毎日の生活を彩ることも大事ですが、何よりも重要なのは今生きているということだから、誰かの命を救う仕事をしたいと感じました。

でも、今からできることを考えた時、警察官になって殺人犯から命を守るとか、医者になって誰かの病気を治すということは難しいなと思って・・・。

ただ気象災害から誰かの命を守ることはできると感じて、気象予報士になることを決めました。

── そうだったんですね。

片山:
気象災害って、地震に比べると予報できる確率が高いんですね。どんなふうに天気が移り変わっていくか予想できるから、危ないところに行かなければ災害に巻き込まれる可能性を低くできます。

自分ができる限りのことを尽くして、人の命を救う仕事をしたいなって思うようになったのがきっかけでしたね。

── アナウンサーから気象予報士になって、同じ報道という世界でも違うなと感じることはありますか?

片山:
今までは、自分がアナウンサーとして農家の方とか料理研究家の方など、専門的な知識を持つ人を取材することが多くて誰かに何かを聞いて、情報を提供する仕事が多かったんですね。

でも今は誰かに「これから天気はどうなりますか?」と聞かれることのほうが多くなったと感じます。

アナウンサーとして専門家の話を聞くうちに、一生の仕事をしたいなと思うようになり、専門知識がある気象予報士への憧れが増したのもありますね。

── なるほど。

片山:
いろんなひとを取材するうちに、違う仕事をする未来も見えてきたというか。

自分の特性を活かした仕事をしたいなって思うようになって、気象予報士になりました。

まだ1年だけれど、見ている人にとっては何年目であっても同じ気象予報士。

それがいい意味でもプレッシャーではありますが、専門家として信頼される気象予報士になりたいと思っています。

見ている人が一番知りたいことは何だろう?

── 気象予報士の資格は、取得するのはどれくらい難しいものなんでしょうか?

片山:
資格取得の試験の合格率は、4~5パーセントくらいと言われているみたいです。

でも資格を取っただけでは、仕事としてやるには全然知識が足りないなって感じます。

試験に出るのは、典型的な天気のパターンしかないからです。実際には役立たないことが多いですね。

── 素人目線の質問なのですが、例えば町を歩いていて、もうすぐ雨が降りそうだとか、そういうのが分かるようになったりはするのでしょうか?

片山:
にわか雨とかだと、黒い雲が浮かんでいるからそれを見れば分かるけれど、ちゃんと天気を予報するには、やっぱり天気図を見なくちゃ分からないですね。

地上から見た天気の様子だけじゃなくて、上空3,000、5,000、1,500メートルの状態を見て、どのあたりが湿ったり乾いたりしているかを調べてから、地上の天気を予報するので。

── 気象予報士として天気を解説する時に、何が一番難しいと感じますか?

片山:
報道する時に、何の情報を優先すべきかを見極めるのが、すごく難しいと感じます。

例えば、台風が何ヘクトパスカルでどんな風に変わってきているかということも大事だけれど、テレビを見ている人にとっては「いま何を備えなくちゃいけないのか」「台風は自分の住んでいるところに来るのか来ないのか」ということの方が、いち早く知りたい情報です。

基本的には気象庁からの天気図のデータをもとに天気を解析をするんだけれど、気象庁が発表する内容をそのままなぞって報道するだけじゃなくて、自分なりに「見ている人が今一番知りたいことはなんだろう?」と想像力を働かせて、天気を伝えなければと考えています。

気象予報士・片山美紀さん

1分1秒も無駄にしないストイックさ

── 憧れている先輩などはいますか?

片山:
富山で働いていた時、当時憧れていた人が同じ局に勤めていた女性で、その人のことは仕事人としても女性としても、一人の人間としてもすごく尊敬できるひとでした。

気象予報士になったのは、その女性が気象予報士だったからというのも大きいです。

── その方の、どんなところに憧れていたんですか?

片山:
社内の人からも地元のテレビを見ている人からも「地域の災害のことだったら、この人に聞こう」と思われるほど、認知度と信頼を持っている女性でした。

当時は、その人に怒られることもあったんですが、印象に残っているのは、ラジオ番組で私がMCとして気象予報士に話を聞くという番組を一緒にやった時のことです。

台風が来ている時期の放送だったので、私が番組の最後に「台風が来ているから、今日は外出は控えたほうがいいですね」と言ったんですね。放送が終わった後、その人に「どうして外出をしないほうがいいって言ったの?」と聞かれて。

そう言われて初めて「ああ、私、どこかでそのセリフを聞いたことがあるから言ったんだな」って気づいたんです。

── それっぽいことを言ってしまった、ということでしょうか。

片山:
深く天気のことを考えたり判断したりせずに、浮かんだ言葉をそのまま言ってしまったんですね。

その先輩には「公共の電波を使って発信する言葉は重みが違うから、なんとなく聞いたことがある言葉を使うのではなく、自分で根拠を持って必要だと感じることを言わなければいけない」ということを教えてもらいました。

これは気象予報士というより、報道陣として尊敬できることなのかもしれないんですが。

── しかも天気予報ってそのほとんどが生放送ですもんね。

片山:
その先輩は、1分、1秒も無駄にしない人でもありました。

放送時間の枠が、あと5秒で終わるという時って、自分が話している間に放送が切れるのは怖いから、黙っておくということもできるんです。

でも先輩は、放送時間の最後の1秒まで大事にしている人で「伝え切れることは最後まで伝え切りたい」という、ストイックな人でした。

大阪は「得した自慢」の文化

── 気象予報士になって、投資をするようになったものはありますか?

片山:
やっぱり勉強のために、本は買いますね。

先にもお話したとおり、経験がものを言う仕事ですし毎年気象現象って違うから、本だけでは補いきれないところも多いです。

今年は北海道に相次いで3つ台風が接近したこともあったけれど、そういうのは本には載っていないし、天気の様子は毎年変わります。

でも経験って、すごく大事なんだけれど、お金を払って得られるものではないですし、手に入れるのに時間がかかりますよね。

だけど本や知識なら、努力次第で人に追いつけるから、そこはお金をかけないとなって思っています。

知識をつけるためにという点で言うと、いろんなところに旅行に行くのも大事だなって思いますね。

── どういうふうに役立つんですか?

片山:
現地に行ってみないと、その地域の天気とか地形って分からないから。

富山にいた時は、冬はずっと曇りか雨か雪の日が続き、日差しの有り難さが身にしみて分かりました。

でもそれも、富山に行かなければ分からなかったことです。地形や地理を知っているからこそ、分かる天気やおもしろさもありますしね。

── 知識を得るために、ほかに具体的に投資したことというのはありますか?

片山:
富山にいた時に、もう一回ちゃんと自分で気象予報士になる勉強をしたいなって思って、独学だけだとモチベーションも上がらないから、昔お世話になった気象予報士の方に勉強を教わりに東京へ通っていました。

半年くらい東京と富山を往復していたので、結構移動費がかかりましたね。

── なるほど、じゃあお金を使うとなると、勉強のためや移動費が主になるのでしょうか。

片山:
そうですね。

もともと思い切って大金を使うということがあまりなくて。それは関西で育ったからということがあるのかもしれませんが。

── というと?

片山:
高価で良いものだけでもイヤだし、だからといって安ければ良いというわけでもなくて・・・。

たぶん、良いものを安く手に入れたいという気持ちが強いのだと思います。

なんとなくお金を使わない方がいいという環境というか、価値観の中で育ったから、お金を遣うのがもともとあまり得意ではないのかなと思いますね。

── 倹約家ということでしょうか。

片山:
うーん、というよりは、大阪の“得したい文化”みたいなものが染み付いているのかもしれません。

例えばですけれど、大阪のおばちゃんが「これいくらやと思う?」って聞いてきたとして、「500円?」と返すと「100円やで」って得意げに答えるんです。

それで「安ッ!」って相手がビックリするのが嬉しいんですね。そういうやりとりができるのが自慢というか。

「これくらい得をしたんたぞ」ということの方に、意識が向くかなぁ。東京では、あまりそういう文化はないと思いますね。

── 得をした自慢より、高価なものを買った自慢の方が確かに多いかもしれません。

片山:
そうですね。

でもその中でも、さっき話した勉強のために本を買ったり、人と過ごしたりする時間は、あまりケチらないようにしていますね。

一人でご飯を食べる時はあまりお金をかけませんが、誰かとご飯に行く時は、美味しいものを食べて過ごしたいなと思います。

気象予報士・片山美紀さん

── じゃあ、あまり無駄遣いするようなことはないんですか?

片山:
無駄遣いかは分かりませんが、一人で本を読む時とか、勉強したい時とかに、ついついカフェに入ってしまんですよね。

それって必要なお金なのかもしれないけど、1回お店に入ってコーヒー代を400円くらい毎回払っていると、月に5,000円近い出費になるし一年だと7~8万円になります。

それをなんとかできないかなぁって思っていますね。

── すごい分かります! 私もカフェで仕事をするけれど、出費を考えると行かない方がいいなって思うんです。でも家だと集中できなくて・・・。

片山:
私は今、一人暮らしだから、そこでも勉強したり読書をしたりできるとは思うんですけれどね。

もしかしたら家が快適じゃないから、できないのかなって考えたりもして・・・。

だからもうちょっとこまめに部屋を片付けて、モノを増やさない努力をしなきゃなって思って。私に集中力が足りないだけなのかもしれませんが。

── 家はくつろぐ場所でもあるから、集中し続けるのって難しくないですか? すぐウダーってなっちゃう。私は。

片山:
そう。だから難しいですよね・・・。

あとは節約するよう心がけていることというと、ペットボトルの飲み物は、すぐ買わないようにしていることでしょうか。

家から水筒を持っていけば済むことですしね。最近はいろんなものを買うにつけても、よく考えるということを大事にするようになったかなって思います。

── よく考える?

片山:
私、大学に進学してから今まで、よく引っ越しをしているんですね。

在学中も大学の寮を出て近くに引っ越したり、仕事も富山、和歌山と移動して、今年東京に戻ってきたので。

何度も引越しをしていると、モノがたくさんあるのがすごく億劫になるんです。

片付けるのが大変だし、引っ越すたび「こんなのあったんだ!」っていうモノが出てきて、その度に「モノを大事にできていなかったな」って反省するし、そういう思いをするのは、もう嫌だなって思います。

あんまりコレ欲しくなかったんだなとか、適当に買っちゃったなって思うものもぼちぼちあったから、これからは本当に必要なものを買おうかなって思っています。

自分で決めた道に自信が持てるように貯金をする

── じゃあモノにお金を使うというよりは、移動とか引っ越しに投資してきた感じなんですね。

片山:
そうですね。

あとは2ヶ月に1回くらいは実家に帰ろうとは思っていて、その大阪と東京を往復する新幹線代はケチらないようにしていますね。

今まで家族には、金銭的にすごく自由にさせてもらったから。

大学も私立だし一人暮らしもさせてもらったし・・・。それからアナウンサーになりたいって言った時も、結構いろんな地方のテレビ局を受けるとなると移動費がかかるんですが、バイト代だけじゃ足りない分を出してもらったこともありました。

そんな風にいろいろ応援してくれているから、せめて2ヶ月に1回は顔を出そうって思って。私自身のリフレッシュにもなりますしね。

あとお金のことでもう一つ大事にしているのは、貯金は絶対しておこうと思っているということです。

── それは何かが起きた時のためとか、将来のためにということですか。

片山:
もちろん、私に子供ができたら、自分が両親にしてもらったように、子供のやりたいことを応援できるだけの貯金はしておきたいなって思います。

でも今のところ子供がすぐ欲しいわけではないし、車を買いたいとか、家が欲しいとかそういうことを考えているわけでもなくて。

それでも目の前の「あ、いいな」って思ったものをちょっと我慢してでも、貯金を優先したいと思う理由を、自分なりに考えてみたんですけれど、自尊心のためなのかもしれないと気づきました。

── 自尊心?

片山:
新卒の頃から、私はいわゆるふつうの会社員になったわけじゃなくて、アナウンサーとして業務委託で仕事を始めたんですね。

ふつうの会社員の友達は、お給料が上がったりボーナスをもらえたりすると思うんですが、そういう様子を見て、羨ましいなって思っちゃうのがイヤだからなのかもと思いました。

自分で選んだ道で生きていくうえで生活がカツカツになってしまうと、自分の選択した道に自信が持てなくなってしまいそうで。だから毎月1万円でもいいから貯金をしておくことで、心のゆとりが持てるかなって思います。

── なるほどなぁ。自分に自信を持ったり、進んできた道を肯定したりする上の手段として、貯金をするということですね。

片山:
自分がやりたくて選んだ仕事なのに、お金がなくて苦しい思いをするのは辛いし、選んだことを後悔してしまうから。

それは私にとってはとても辛いですし、貯金をすることで自分を保てる部分はありますね。

── 今後どんな風な気象予報士になりたいなど、目標があったら最後に教えてください。

片山:
将来的には気象予報士として、防災の仕組みづくりに関わりたいなって思っていいます。

テレビなどを通じて防災に関わることに加えて、それだけじゃなくて仕組みを作る、もしくは作る手助けができる仕事ができればいいなと思っています。そのために、今は勉強の毎日です。

── お仕事終わりに、ありがとうございました!

【編集後記】インタビューした感想

アナウンサーになりたいという夢を語っていた片山さん。出会った頃から勉強熱心で、夢をひとつずつ叶えているのは私も知っていましたが、久しぶりに会って、ますますパワーアップしているなぁと感じました。

カフェ代を節約したいというお話は、まさに私も「節約できたらなぁ」と考えている部分ではありましたし、自分が選んだ道を肯定するために貯金するという姿勢は、とても共感しました。

私自信が優先して整えたいのは何なのか、私が自分の心のゆとりを得るためにできることは何か、今一度見つめ直すきっかけになった取材なのでした。

ノマド的節約術の裏話

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この記事を書いた人

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。これからの暮らしを考えるメディア「灯台もと暮らし」の執筆、編集を担当。いつか書道教室をひらくのが夢。