「ぐるりみち。」というブログを運営されている、フリーライターのけいろーさんに、お話をうかがいました。
新卒入社した会社を1年半で辞め、無職の日々を経たのち、コツコツ続けていたブログで生計を立てられるようになったというけいろーさん。
今の働き方や仕事に、なんとなくモヤッとしている方は、勇気をもらえるかもしれません。
けいろーさんインタビュー
インタビュー日:2016/7/8
インタビューの流れは以下のようになっています。
- リアルとネットの人のつながり方
- 読むことと書くことから生まれた言葉への関心
- 人生初のボーナスで自分のために買ったのは?
- 無職時代のお金と時間の使い方
- お金は必要なことではなく好きなことに使いたい
転校が多かった子ども時代
── まずは自己紹介をお願いいたします。
けいろー:
2015年に独立して、今はライターをしています。
趣味で書いていたブログからのアドセンス収入と執筆活動をしながら、生活しています。
── ご出身はどちらですか?
けいろー:
東京都です。
ただ父が転勤族だったので、かなりいろんなところを転々としています。
── 例えば、どこで暮らしていたのでしょうか。
けいろー:
茨城、愛知、北海道などですね。
そのあとは、小学校6年生で埼玉に落ち着き、今に至ります。
父が、さすがに高学年になったらあんまり転校が多いのもどうかと思って、気をきかせてくれたみたいです。
── あんまりいろんなところを転々としていると、地元とかふるさとがどこかと聞かれたときに困りませんか?
けいろー:
確かに、どこか一つが地元、というわけではないですね。今の一連の流れは必ず説明します。
── けいろーさんが一番愛着があるのは、どこになるんですか?
けいろー:
そうですねぇ・・・。やっぱり、埼玉県ですかね。中学・高校と埼玉県の学校に通っていたのと、そのときに他県民から「ダサイタマ」的な揶揄を何度か受けたこともあり、ある種の反抗心というか、郷土愛が芽生えたような印象はあります(笑)。
── ブログを書き始めたのは、会社員時代とかぶっていますよね?
けいろー:
はい。入社した年が2012年で、その年の12月からブログを書き始めました。
仕事が忙しくて、ブログは更新頻度も不定期だったので、コレで稼ごうとか当時はぜんぜん思っていませんでしたね。
── 会社を辞めたのは体力の限界だったというのを拝見しました。
けいろー:
商材がすごく重たいものだったんです。営業もやってはいたんですけど、腰にガタがきてしまって。
── それは入社して「こんなハズじゃなかった!」という肉体労働だったんですか?
けいろー:
いや、何を扱っているかはもちろん入社前に分かっていたので、大変だろうというのは覚悟していました。
小学生からハマったネットカルチャー
── ブログを書き始めた頃に、ネット業界に関する知識は、どれくらいあったのでしょうか。
けいろー:
インターネットカルチャーに関しては、中高生の頃から好きだったんですけど、知識としてはHTMLがかろうじて分かるくらいでした。
── ネットカルチャーに興味を持ったきっかけというのは?
けいろー:
最初は、父が買ってきたノート型Macintoshでした。たしか2001年発売の、PowerBook G4だったと記憶しています。それを触らせてもらったのが最初です。
そのあとは、フリーチャットにハマって、おもしろフラッシュを見るようになりました。
── チャットというと、どういうものになるんですか?
けいろー:
地域別とか年齢別とかカテゴリがいくつかに分かれていて、それぞれのチャットルームに入って、人がいたらおしゃべりする、という感じです。
── チャット文化に触れたのは、どうしてだったんですか?
けいろー:
チャットという言葉を知ったのは、青い鳥文庫の『パソコン通信探偵団事件ノート』(講談社)というシリーズの 、児童向けの推理小説だったと思います。
お互いに顔も年齢も分からない少年少女たちがチャットでつながって、コミュニティを形成して事件を解決していくという物語でした。それで興味を持ったのでしょうね。
── なるほど。その頃は、チャットを使っている人に実際に会ったりすることはあったんですか?
けいろー:
中学生時代はまったくなかったのですが、オフ会に参加するようになったのは、高校生になってからですね。
インターネットとリアルの、ゆるやかなつながり
── 結構早いですね! ネット上でつながった方とリアルの場でも会うというのは、よくあるのですか?
けいろー:
基本的には「呼ばれれば行く」スタンスなので、自分から積極的に「会いましょう!!」と言うことは、あまりないですかねぇ。
もともと中高生くらいのインターネットカルチャーの感覚を引きずっているので、ブログもmixiの延長線上という形で使っていると言えるかもしれません。
いつもネット上で絡んでいる人からオフ会に呼ばれたら、喜んで行く。おもしろそうなイベントがあったら、足を運ぶ、という感じです。
ブログでも、お茶のお誘いがあればどうぞ、と連絡フォームを設けていますが、それも読者の方から問い合わせがあればぜひお会いしたいと思っています。
── 昔からインターネットに触れてきたけいろーさんにとっては、今のリアルとネットが近い、むしろつながっている状態というのは心地よいものですか?
けいろー:
個人的には、SNSがこれだけ流行って、境界がなくなってきているから、その状況を楽しんだほうがいいなと思っています。
── うんうん。
けいろー:
ただ、SNS上で交流しているだけでは、結局相手のことは何も分からないとは思っているので、線引きはちゃんとしたいですね。
その線引きを明確にするために匿名にしたり、顔出しをしなかったり、方法はいろいろあると思います。
── 人とのつながりの作り方や付き合い方というのは、転校が多かったことは影響していますか?
けいろー:
うーん、どうでしょう。人見知りなので転校するときは最初、僕もちょっと不安でしたが、何度も繰り返すうち、人間関係を割り切れるようにはなりました。
── 割り切れる、というのは良い意味でですか?
けいろー:
良くも悪くも、ですかね。出会いも別れも多かったので、「会って話せただけでもラッキー」と感じられるようにはなりました。。
人とのご縁はいつか切れてしまうかもしれないけど、会えたならそれでいいじゃんと今は思っています。
書く、読む。方法は違えど昔から言葉に興味があった
── 次に、けいろーさんが書いていらっしゃるブログについてお伺いします。ブログには本のレビューも結構書かれていますよね。読書は昔から好きだったんですか?
けいろー:
児童書をはじめとする小説類は昔から読んでいましたが、新書やビジネス書といった“お堅い”本を読むようになったのは、高校生活も終盤を迎えてからですかね。
高校時代は、担任の先生がオススメしてくれた本をよく読んでいました。
── 例えばどんな本をオススメしてくれたんですか?
けいろー:
ちょうど受験生の頃に流行っていたのが、松井秀喜の『不動心』という本で、それは読みましたね。
── 書く事は、昔から好きだった?
けいろー:
はい。
── それは、先ほど話していたmixiの日記とか、ですか?
けいろー:
そうですね。
書いたものに対してコメントをもらいたいという気持ちは、やっぱりあります。
── 今まで一番印象的だった、読者からのコメントや反応があったら教えてください。
けいろー:
一番うれしかったのは、オフ会で会った友達に「お前のブログのテンションと、実際会ったときの雰囲気って、ぜんぜん変わらないな」って言われたことですね。
── へぇー! そう言われたのがうれしかったのは、どうしてなんですか?
けいろー:
僕、口下手なので、面と向かっては言えなかったことも、書いていると思い浮かんでくることが、結構あるんです。
だからブログで書いていることが僕の印象そのままということは、伝えたいことがちゃんと伝わっているんだと実感できて、うれしかったのかなって思います。
「参考になります」「おもしろかったです」という感想とか、あとは「自分はこう思います」という主張や反対意見も含めて、「しっかりと読んでもらえている」ことが分かるコメントは、どれもうれしく感じますね。
── ブログの記事でも書くこととか言葉に対する話が多いような気がするのですが、それは読書が好きだったことと関係しているんでしょうか。
けいろー:
もともと文章を書くことが好きだったというのはありますが、一個きっかけになったのは、大学時代のゼミですね。そのゼミの先生が民俗学を教えてくれていたんです。
文化を学ぶために文章を読むとなると、単語の意味もひとつずつ調べないといけないことが多いんですね。そのなかで、一文字の漢字の中にはこんなにいろんな意味が詰まっているんだって知ることが多くて、興味がわきました。
初ボーナスで買ったのは反物から仕立てた着物です
── 次に、仕事とお金の事を伺いたいと思います。社会人になってからのお金の使い方は変わりましたか?
けいろー:
そうですね・・・逆に使わなくなりました。忙しすぎてお金を使う暇もなかったというか(笑)。
── そうだったんですね。
けいろー:
入社してすぐ、社員寮に入ったんです。そのための家具とか必要なものを一式そろえただけで、あとは特にお金は使っていないんですね。
会社員になって一番最初にドカンとお金を使ったのは・・・コレ(羽織の裾を正して)ですね。
── 着物。
けいろー:
入社してはじめてのボーナスで、両親にはプレゼントを用意してたんです。で、自分には何を買おうかなと思ったとき、はじめてイチから着物を仕立てに行きました。
── どうして着物だったんですか?
けいろー:
昔から和モノが好きだったんです。だからいつか揃えたいなとは漠然と思っていて。
── 着物を買うときに、どんなところにこだわるんですか? ファッションポイントというか・・・。
けいろー:
一番目立つのはやっぱり長着で、それで全体の印象が決まるので大事だとは思うんですけど、僕自身、ものすごく着物の知識があるわけではないんです、実は(汗)。
── そうなんですね。
けいろー:
でもおしゃれな人だと、帽子をかぶったり帯をちょっと変わった柄のものにしたりとか。
あとは羽織は裏地があるものが粋とされているので、そういう見えない部分にも気を配るのが、和服のおしゃれなのだと思います。
── 仕立てるのは、どこへ行かれたんですか?
けいろー:
僕は月島にある、男性用着物の専門店へ行きました。
男の着物を広げようという活動をされている方もいるので、そういう方のサイトを見て参考にしたりしました。
── ちなみにおいくらくらいしたんですか・・・?
けいろー:
もろもろ帯紐とか小物も含めて、10万弱くらいかかりましたね。
── 和風のものが好きになったのは、何が入口だったのでしょうか。
けいろー:
もともと日本の伝統文化的なものに触れるのが好きだったんですけど、着物以外だと、高校時代に和太鼓をやっていたのは大きいかもしれませんね。演奏の際には、衣装の上に法被を羽織っていましたので。
── その和太鼓は、どこかで演奏をしたり発表会を開いたりはしていたんですか?
けいろー:
祭りの時にやぐらの上で叩くこともありました。でも基本的には、学校内で結成されたチームだったので、そのなかで演奏したり叩いたり、という感じでした。
── 和モノに関する知識は深めたいと思いますか。
けいろー:
そうですね、もっといろんなことを学びたいという気持ちはあります。
ただ教室とかに通い始めると、すごくお金がかかってしまうので、今はまだガマンかなと思っています。
急ぐ必要がなくなると見える景色が変わってきた
── 退職して独立するまでのお話も、聞かせてください。当時、けいろーさんはご自身のことを“無職だ”とブログに書かれていましたよね。
けいろー:
はい。
── その時期は、どういうふうに過ごしていたんですか。
けいろー:
仕事を辞めたばかりの頃は、気分がハイだったんですよ。やっと仕事を辞めてやったぜ!という感じで。
だからその勢いで旅行とかも行きました。でも、そのあとは少しずつ節約しなくちゃなと思いながら過ごしていましたね。
── 意識を切り替えた瞬間はあったのでしょうか。
けいろー:
いえ、徐々にですね。
節約家というわけではないけれど、できるだけ安く抑えようという意識は中学生の頃からありました。だから今でも、電車でひと駅しか移動しないなら歩くようにしています。
── お金を使うことは時間を買うということ。でも時間を買うことで失うものもある、という内容をブログで書かれていましたよね。そういう発想になったのはどうしてなんですか。
「移動」という面で「お金の使い方」を考えた場合、そこで買っているのは移動によって短縮される「時間」であり、ある意味では、代わりに「機会」を失っているようにも見える。
もちろん、電車や車といった乗り物に乗らなければ見ることのできない「景色」(≒経験)もあるので、その点は一長一短ですが。(僕らは「お金」で何を買っているのだろう?|ぐるりみち。より)
けいろー:
前からなんとなく、そういう価値観はあったんですけど、改めて思い直したのは、やっぱり無職時代の頃でしょうか。
仕事をやっているときは、なるべく早く移動したいと思っていたので、移動費も惜しまなかったし、友達と会う時も安く行けるルートより、できるだけ最短で行ける方法を選んでいました。
でも無職になってからは、特に急ぐ必要がなくなるので、特急やタクシーを使うこともなくなります。もう電車すらいらないんじゃないかと思ったくらいで、基本的には歩いて移動するようになりました。そうすると今まで見過ごしていたようなお店や風景を見つけることができたり、寄り道できたりするんです。
── どちらの時間の使い方のほうが、けいろーさん的にはしっくりきますか。
けいろー:
今の方ですかね。もともとそういう気質なんだと思います。
中学生の時も、移動するなら電車より自分でチャリで移動していましたし。
── へぇー!
けいろー:
その頃は音楽を聞くのが好きだったので、隣町のTSUTAYAまで自転車で行って、当日返却でCDを借りて、家に帰ったらMDに入れて、翌朝開店前にまたチャリで行って返す、ということをやっていました。
べつにものすごく音楽に詳しいわけではないんですけど、いろんなものを聞くのが好きなんです。JpopはTSUTAYAで借りられますが、レンタルできないマニアックなCDとかも好きだったので、そっちは新しいものを買って、レンタルできるものは極力TSUTAYAで借りていました。
── 移動費のほかに、意識が変わった出費はありましたか?
けいろー:
会社員時代は、おいしいものや、ちょっと高めのものを「自分へのご褒美だ!」と食べることもありました。
でも会社を辞めてからは、なるべく安いお店を選ぶようになりましたね。喫茶店もチェーン店のワンコインコーヒーで済ませたり。
── もともと節約する意識があったぶん、それはあんまり苦には感じなかったのでしょうか。
けいろー:
そうですね。抑えられるものは、極力抑えたいと思っています。
逆にCDとかマンガとか、好きなものにはお金を使いたいんです。
見えない未来のことよりも、まずは今を大切に楽しく生きていきたい
── お金持ちになりたいという欲求はありますか?
けいろー:
いや、今はないですね。好きなものを買えるだけのお金があればいいなと思います。
── 間近の欲しいものってありますか?
けいろー:
そうですねぇ・・・カメラですかね。いま家族で使っている共用のカメラはあるんですけど、もうすこし性能のいいやつが欲しいなーと思いますが、それくらいでしょうか。
── 衝動買いもあんまりしないタイプですか。
けいろー:
ないですね。納得のいくかたちで買い物をしたいし、迷っている時間も楽しいので、何度もお店に足を運んで最後まで悩むこともあります。
大学生の頃は、コミケで一気買いをしていましたけど(笑)。毎回、イベントでは1回にCDを30枚くらい買っていたので、気づいたら家にあるCDが300枚を超えてしまったこともありました(笑) 。
── すごい! それ、いくらくらいかかったんですか?
けいろー:
安いのだと一枚500円くらいで、あとは1,000円で・・・合計すると結構な金額になりますね(笑)。
── 今でもそういう、大人買いのようなことはしますか?
けいろー:
あんまり、ですね。もし今お金をかけて何かをするなら、旅行に行きたいです。海外旅行に行ったことがないから、行ってみたいなって。
特に台湾は、いろいろな人に勧められて気になっているので、ぜひ一度訪れてみたいです。
── 旅行の他に、何かやりたいこととか欲しいものはありますか。
けいろー:
習い事をしてみたいですね。
── おお! 先ほどの着物とか和モノに関することですか?
けいろー:
そうです。月謝を払って和太鼓とかお茶を習いたいなって思っています。
── 今後、こういうふうな暮らしがしたいという理想はありますか。
けいろー:
何か明確なビジョンがあるわけではないんですよね・・・。まずは目の前の仕事をきちんとやって、収入を安定させることが大事だと思っています。次のステップは、その後考えたいなと思っています。
── 本も出されていますが、作家になりたいとは思わないんですか?
けいろー:
うーん、漠然としたあこがれはありますが、好きなことをして生きていければいいと思っているので「作家になりたい!」と強く思うことはないですね。
なによりも、今を楽しむのが大事だなと感じます。
【編集後記】インタビューした感想
私もよく、わざと電車をひとつ前で降りて、目的地まで歩くことがあります。
これは駅と駅の間が近い、東京での暮らしならではの節約術かもしれませんが、そうすると電車から見える景色と、まったく違う風景を見ることができて、しかも気持ちのリフレッシュにもなるんだよな、とけいろーさんのお話を伺いながら思いました。
なんだか悶々とすることがある日は、あえて何もかも素早く終わらせるのではなく、少し時間をかけて遠回りすると、移動費の節約になるだけではなく新しい発見があるかもしれません。