看護師から役者へ。異業種に飛び込んだ役者・荒牧奈津希さんの仕事への考え方と「きちんと生活する」節約術

看護師から役者へ。

まったくの異業種にチャレンジした荒牧奈津希さんは、現在、舞台や映像などに出演してご活動されています。

そんな荒牧さんに、医療現場に立つ仕事から演劇の道を選んだ胸の内や、生活がガラリと変わったときのお金の使い方、お金に対する価値観の変遷についてお話を伺いました。

看護師を辞めるとき「今まで簡単に手に入っていたものが手に入らなくなる」ということをわかっていたけれど、「それでも」と思って、演劇を生業にし始めた荒牧さん。

決して看護師時代より余裕のある暮らしではないけれど、「ないものはない」と割り切った上で荒牧さんが見つけた節約術がありました。

荒牧さんインタビュー

荒牧奈津希さん
インタビューした日:2018年2月8日

演劇に時間もお金もかけた学生時代

── 荒牧さんが、舞台や芝居に関心を持ち始めたのはいつからですか?

荒牧奈津希(以下、荒牧):
すごく幼い頃からでした。

運動神経はあんまりよくなかったのですけど、歌ったり踊ったりすることが子どもの頃から大好きだったんです。

実家にある小上がりみたいなところに乗って、誰も見ていなくてもディズニーの曲を踊っていた記憶があります。

── ディズニーがお好きだったんですね。

荒牧:
キャラクターのモノマネもしていましたね。

家族が笑ってくれるのが好きで、そのリアクション欲しさにモノマネをしていました。

── では、子どもの頃から歌やダンスを見ているだけじゃなくて、体を動かしていたと。

荒牧:
その延長で、高校の頃は音楽部っていう、合唱コンクールからミュージカルまでやる部活に所属しました。

お芝居の世界にどっぷりで、毎日忙しかったけど幸せでしたね。

── 荒牧さんは、どんな世界観の作品を好んでいたのですか?

荒牧:
私自身は、高校のときも今も、完全なコメディや振り切ったハッピーエンドより悲劇があるものが好きです。

── 部活動では実際にそういう作品も演じられていましたか?

荒牧:
音楽部では本当にいろんな作品を観たし、自分も演じました。女子校だったので、宝塚のようなことをやっていました。

私は男役で、意外と後輩にウケもよかったなぁと思い出します(笑)。

── 部活が忙しかったということですが、アルバイトなどはしていましたか?

荒牧:
土日もレッスンが入るのが当たり前だったので、アルバイトはしていませんでした。でも、でも、お芝居やミュージカルを東京まで観に行ったり、そのついでに洋服も東京で買ったりしていた記憶があります。

── ミュージカルって、高校生からするとチケット代がけっこう高いですよね。

荒牧:
高いです(笑)。しかも、地元が群馬だったから、群馬から東京までの交通費もかなりかかりました。

でも、好きだったからやっぱり観に行きたくて、お年玉をそこにつぎ込んでいました。

荒牧奈津希さん

社会に出て人生を賭けたいものに気づいた

── 高校を卒業してから、歌や役者でプロになる道は考えなかったのでしょうか?

荒牧:
進路を決める段階で考えました。

やっぱり、音楽や演劇の学校に行きたかった。だから私、横浜市立大学で看護を学び就職したけれど、退職して舞台芸術学院という舞台の専門学校に通い直しているんです。

大学で演劇の学校を選ばなかったのは、両親の反対を押し切ってまでやっていく自信がなかったから。

── 高校生くらいの年齢のときに応援されない道でやっていく覚悟を持つって、なかなか難しいですよね。

荒牧:
高校生のとき演劇のほかに、医療に関心があったのと子どもが好きっていう気持ちがあったので、看護師を志すことにしたんです。

── 看護師として働き始めてから、演劇への想いは変化しましたか?

荒牧:
歌やミュージカルが好き、舞台に立ちたい、演じたいって気持ちは変わりませんでした。

けれど、看護師という仕事にもすごく誇りを持っていて、仕事に対して意識が大きく変わったのは看護師を経験したからだと思っています。

── 荒牧さんにとって、仕事とはつまりなんだと気づかれたのでしょう?

荒牧:
人生をかけるものだと思いました。

看護師をやってわかったのは、私の行動全てが誰かの命に繋がるんだということ。だからミスは許されないし、たくさん勉強しないといけない。

朝早く出勤して、残業して、帰宅して教科書を開いて勉強する。毎日それを繰り返して、毎日命に向き合う。

── 生半可な気持ちじゃできないですよね。

荒牧:
それをこれからもやっていくと考えたときに、きっと人生をかけて命に向き合わないといけない、そうやって患者さんに向き合わないとこの仕事は務まらないと思いました。

けれど、私の中にはまだ、本当は演劇をやりたいという気持ちがあったんです。

人生を賭けたい別のことがあるのに、看護師は続けられない。私は役者をやることに人生を賭けたい。

それに気づいて、看護師をやめようって振り切ったんです。

荒牧奈津希さん

他人と比べることをやめたらジェラシーを感じなくなった

── 演劇の専門学校に入学してからは、看護師時代とどのように生活が変わりましたか?

荒牧:
看護師の頃は、寮に住んでいたしお給料もよかったので毎月5万くらいカードを切っていたけれど、貯金もできていました。

ブランド物を買っていたし、同僚と毎週飲んで外食生活を送っていました。

── 寮からは出ないといけなかったと思うのですが、どこを拠点に暮らしていたのですか?

荒牧:
家賃を抑えたかったから実家に戻ることにしたんです。

群馬から東京まで毎日片道2時間かけて通う生活に一変。全然お金に余裕もないし、ブランド物も簡単には買えなくなりました。

でも、私は好きなものが買える毎日より、やりたいことをできる毎日の方がよかったんです。

── 生活が一変しても、精神的には喜びが大きかったんですね。

荒牧:
専門学校に通い始めた頃は、ジェラシーを持ったりもしましたけどね(笑)。

── ジェラシー?

荒牧:
高卒でまっすぐこの世界に来た子とか自分の友達で劇団四季で活躍する子とかへの嫉妬心みたいなものでしょうか。

それは、自分が満足のいく毎日を送っていないからっていうのがあって。私自身が結果を出せばこのジェラシーはなくなる、と思ってひたすらやるべきことをやっていた感じでした。

けれど、ここ3・4年くらいでそんな気持ちは無くなったのですけど。

── なにか変化があったのでしょうか?

荒牧:
単純に気づいたんです。人と比べる仕事じゃないなって(笑)。

この役者という仕事に限らずなんですけど、自分の今までやって来たことっていうのは必ず人生経験として役立たせることができます。

たとえば、私は今では看護師だったことを活かして看護師の役をもらえたり。

── 看護師役を、すごいです!

荒牧:
夢まで回り道をしたって、決して無駄だってことはないと思っています。

だから、医療の現場で培った生死観とか、これから活かせる場面があったら活かしていきたい気持ちです。

荒牧奈津希さん

「ないものはない」を前提に、きちんと生活すれば節約になる

── 演劇の専門学校時代はご実家の群馬から東京に通われていたとのことですが、卒業してからの拠点は東京ですか?

荒牧:
東京です。

実家じゃないので家賃を含めた生活費はもちろん、会社員じゃないから交通費もけっこうかかる。

── 看護師時代、ブランド物を買ったりや外食生活を送っていたという荒牧さんですが、そういう物欲は消えましたか?

荒牧:
やっぱり、いくら好きなものを買える生活よりも好きなことを仕事にする生活がいいと思っても、物欲は無くならないですね。

けれど、看護師をやっていたときみたいに自由に使えるお金が多いわけじゃない。

── そういうときには、どうやって気持ちに折り合いをつけるのでしょう?

荒牧:
大前提として、ないものはないんですよね。

だから、欲しいって思ったモノに出会っても、一回考えるようになりました。たとえば「あのピンクのバッグが可愛い」って思ったら、これってなんで可愛いって思ったんだろう? この質感? 色?と考えてみる。

── どこがよかったのか精査するんですね。

荒牧:
そうして似たような安いもので替えがきくならそっちを買ったりとか、そもそも買わないとか。

また、可愛い・綺麗と思うものも、「みんなが」という視点から「私が」に変化しましたね。役者をやって、自分のことについてよく考えないといけないって思ったからかなぁ。

── 名のあるブランド物よりも、荒牧さん自身がこれ!と思ったものを買いたいと。

荒牧:
そうやって「私は」の視点に立つと、自然と長く愛せるものを買おうという意識になって、あんまり無駄遣いはしなくなった気がします。

あとは、食生活も変わりました。

── 自炊をするようになられたということですか?

荒牧:
家で料理をするようになりましたね。

忙しいときほど料理に気力も体力も向かわなくて、外食してしまったりしますよね。でもそのせいでお金がなくなって、また「稼がないと」って気合いを入れないといけないのがとても無駄に感じて。

── たしかに自炊はいいですよね。

荒牧:
それも込みで、今はきちんとした毎日を送ろうっていうのが目標です。

きちんと起きて、きちんとご飯を炊いて、きちんとつくって食べる。そうすることが節約につながるんだと思います。

── いろんな便利なサービスが溢れている世の中だけれど、私たちはそのめんどくささを楽にするためにお金を払っていますもんね。

荒牧:
おにぎりを握るのって一手間だけど、お米を炊いておにぎりをつくれば、コンビニでお昼を買わなくて済む。

なにが、無駄遣いにつながるかって、そもそもきちんとしていないことかもしれないですね。
荒牧奈津希さん

自己投資ができるサイクルをつくりたい

── 荒牧さんは、これから役者としてどんな目標を持っていますか?

荒牧:
やっぱり、映像のお仕事にたくさん出演できるようにステップアップしていきたいですね。

舞台がいちばん好きなんだけど、でも大きな舞台に立つためにはいろんな経験が必要だと思っています。

最近は、映画の勉強もしているので、映画にも出られるように頑張りたいです。

── 役者としてステップアップしていくためにどんなことにお金を使っていきたいと思いますか?

荒牧:
自分自身が商品として今より価値のあるものになるためにお金を使っていきたいです。

── 誰よりも見られる仕事ですからね。

荒牧:
たしかにエステとか、化粧品とかにお金を使って見た目を磨くことも大切なのですけど。

でも、やっぱりスキルアップだとか、内面を磨くことにもちゃんと投資していきたいと思っています。

自分が商品として今より価値のあるものになれば、自然と収入も今より増える。そうすると使えるお金が増えて、またさらに自分に投資できる。

── なるほど、自分の商品価値を上げることは、使えるお金が増えていくというサイクルにつながるのですね。

荒牧:
ですのでこれからは、看護師のときと比べて金銭的な余裕があるわけでない今の状況で、どうやってよりよい自分をつくっていくかということについて考えていきたいと思っています。

インタビューした感想

これまで何度も演劇を仕事にすることに対して、自分の気持ちに折り合いをつけ、役者の道を選ばなかった荒牧さん。

看護師という仕事を通して気づいたのは「働くとは人生をかけること」でした。

だからこそ、演劇の世界に挑戦することを決心できたというお話に、荒牧さんの役者という仕事への覚悟を感じます。

「役者の道を選ぶまで回り道をしたようにも思う」とインタビュー中には語った荒牧さんでしたが、「看護師で培った死生観や仕事への価値観が今に生きている」とも言います。

どんな時間にも無駄なことなどなく、なにを始めるのにも遅すぎるなんてことはないんだと、今回の取材を通して心から納得しています。

ノマド的節約術の裏話

ブログでは公開していない情報をメールやLINEで受け取れます。無料で登録可能ですので、下記のボタンよりお気軽にご登録ください!

この記事を書いた人

編集者・ライター。1995年生まれ、秋田県能代市出身。株式会社Wasei「灯台もと暮らし」編集部。野球しながら植物を育てています。