日本の中古ゲーム機を海外に販売するお仕事。
どんな仕事なのか、想像つきますか?
今回お話をうかがったのは、スウェーデン人のジョン・コスキマーさんと、パートナーの菜緒さんご夫妻。
コスキマーさんはWeb制作業「KOSKIMAA DESIGN」を営みながら、ゲームキューブやNINTENDO 64などのハードやソフト、日本の「レトロゲーム」を海外に販売しています。
小さな頃に地元スウェーデンで日本のゲームに出会い、その魅力にとりつかれたコスキマーさんは、ゲームは単なるおもちゃではなく、日本の文化なんだと言います。
「日本人は、とても古いものは文化として残そうとしているけど、10年、15年前のゲームは、すぐに捨ててしまう人が多いんです」
日本で生まれ育った僕自身にとっても、ハッとさせられる言葉が多々あったインタビュー。
日本人にとって大切な文化ってなんだろう。
そんなことを考えながら、読んでみていただけたらうれしいです。
ジョン・コスキマーさん、菜緒さんご夫妻インタビュー
日本と「レトロゲーム」に魅せられたスウェーデンの少年
── コスキマーさんは「レトロゲーム」がお好きなんですよね?
コスキマーさん:
はい。僕が3才の頃、友だちの家で日本のゲームに出会ってから、ずっと好きなんです。いちばん好きなキャラクターはソニック! 今日はNEOGEOのTシャツを着てみました(笑)。
※ソニック=日本のゲームメーカー「SEGA」を代表するキャラクター
※NEOGEO=90年代にSNKが販売していたゲーム機。ちょうど取材のあと「NEOGEO mini」が発表された
── 本当にお好きなんですね! そもそも「レトロゲーム」ってなんですか?
コスキマーさん:
だいたい、今から15年以上前のゲーム機とそのソフトを指すことが多いです。今でも見た目がきれいだったり、ゲーム機やソフトに故障がなくて遊べるものは希少価値があって、海外に販売できるんです。
ゲームを手に入れるチャンスは年2回だった。
── 子どもの頃はどうやって「ゲーム」を手に入れてたんですか?
コスキマーさん:
手に入れるチャンスは年2回でした。まず誕生日、そしてクリスマス。僕は誕生日が夏なので、だいたい半年に1回。毎回ゲームソフトをもらって、運がよければ新作のゲーム機を買ってもらえるんですよ。
── 日本だと、高校生のときにアルバイトをして初めてお金をもらうというケースが多いんですけど、スウェーデンではどうですか?
コスキマーさん:
おこづかいは、毎週おばあちゃんに300円くらいもらえていたから、それをたくさん貯めて欲しいゲームソフトを買っていました。
── おこづかいでお菓子とか買わないんですか?
コスキマーさん:
お菓子はね、スウェーデンでは、金曜の夜に「甘いドリンク」、土曜日に「おやつ」を親が買ってくれる習慣があるんです。だからそれ以外は我慢してゲームを買うために貯めていました(笑)。
あと、スウェーデンでは学生アルバイトの習慣があまりないんです。サマーバケーションのときに短期集中バイトを親の会社でする人は多いけど。
日本に行きたくて幼少時代からのゲームコレクションを売る
── どうして日本に住もうと思ったんでしょう?
コスキマーさん:
僕は、本当に日本のポップカルチャーが好きで。
アニメ、漫画、ドラマ、そしてゲーム。高校生の時に、『花より男子』『電車男』とか日本のドラマを見て、さらに好きになったんです。あと日本の感覚が、スウェーデンより自分に合うと思ったから。
── どういうところがですか?
コスキマーさん:
モノを大切にする文化や、行動に丁寧さがあるところですね。それに、日本の女性はkawaiiですから! それは言っておく(笑)。
── ははは(笑)。いつから日本に住んでるんですか?
コスキマーさん:
僕が初めて日本に来たのは、高校卒業後の旅行。そのときにますます日本が好きになったんですね。
日本の文化や風土と自分が合っていたところも合わなかったところも知ったけど、スウェーデンに帰ったあと、どうしても日本に“戻りたく”なってしまったんです。
だから10ヶ月Appleの修理ストアで働いてお金を貯めて、日本に留学しました。
そのあと日本で海外からの留学生支援をする会社を知人と立ち上げて、その後菜緒に出会って今に至ります。
菜緒さん:
ジョンは日本に留学すると決めたときに、小さい頃から持っていた個人のゲームコレクションを売ってしまったんですよ。学費の足しにするために。
でも今になって「あれを売るんじゃなかった」っていつも言ってます(笑)。
── そこまでして日本に来たかったんですね! 今はレトロゲームだけで生計を立てているんですか?
コスキマーさん:
じつは今、Web制作が本業なんです。「レトロゲーム販売」は副業として月10台程度の発注を受けています。一番取引が多いときは、月80箱もレトロゲーム機を発送していましたよ!
── 80箱! すごい人気だ・・・。
コスキマーさん:
「レトロゲーム」は世界中にファンがいるんです。僕のお客さんとしては、アメリカやオーストラリア、地元のスウェーデンをはじめとしたヨーロッパが多いかな。
特に日本限定発売カラーのものはとってもHOTなんですよ。
「レトロゲーム」を販売する理由
── コスキマーさんはどうして「レトロゲーム販売」をしようと思ったんですか?
コスキマーさん:
それはね、理由はふたつあります。まずひとつは僕が日本の「リサイクルショップ」という概念がとても好きということ。スウェーデンには無いからね。
── スウェーデンでは「リサイクルショップ」が無いんですか?
コスキマーさん:
うん。リサイクルという考え方はたくさんあるんだけど、「リサイクルショップ」というようにお金が関わるシステムは無いんです。
そしてスウェーデンはものを捨てるサイクルが早いんですね、日本に比べると。でも、修理すればまだ遊べるゲームを捨てるなんて、僕には考えられないから。
── もうひとつの理由はなんでしょう。
コスキマーさん:
僕がオタクだからなんだけど、動かなくなってしまったものや古いものを「直したりキレイにすること」が好きなんです。だからゲーム機をキレイにしてしまいます。
菜緒さん:
クリーニングの工程は主に私がやっているんですけどね!(笑)。
コスキマーさん:
そうだね!(笑)。ありがとう、菜緒。
仕事も菜緒さんと二人三脚
── クリーニングのことをもう少し詳しく聞いてもよいですか。
菜緒さん:
ゲーム機にはコントローラーありますよね。その修理はだいたい私の担当ですね。このパーツ見てください。
菜緒さん:
「NINTENDO 64」のコントローラーを分解して出てくるものなんですけど、削れてゴミがでていますし、このパーツはゆがんでいますよね。これが、このコントローラーがきちんと動かない理由なんです。
だからこれを掃除して、パーツを付け替えて、組み立て直すと、100%とはいかなくても、8割9割レベルの使い心地で遊べるようになるんですよね。
── へえー! すごい(笑)。どうやってこのパーツにたどり着くんですか? とてもニッチなニーズのパーツに見えるんですけど・・・。
菜緒さん:
そうですね、このコントローラーの修理方法は、かなり時間をつかいました。分解したあとこのパーツを長時間眺めたりして。
コスキマーさん:
パーツは、レトロゲーム好きのコミュニティで情報をリサーチして見つけました。アメリカの小さなメーカーが作っていたので、直接仕入れています。
── 本当におふたりで二人三脚でやっている事業なんですね。
菜緒さん:
そもそもの仕入れも、ジョンは免許証を持っていないので、私が運転手になって、中古の販売店をハシゴするんですよ。ジョンはウキウキで両手いっぱいに紙袋をさげて戻ってくるのを、車で寝ながら待っていたり。
コスキマーさん:
あと、僕のお客さんたちは「梱包がとても素晴らしかった」ってレビューをくれることが多いんだけど、パッキングも菜緒の仕事です。
海外は物流での荷物の扱いがワイルドなんです。だからね、ゲーム機が壊れないように、低コストで梱包できるように菜緒が工夫してくれているんですよ。
菜緒さん:
中古品の梱包材なので、スーパーでもらったダンボールを使うこともありましたね。
コスキマーさん:
その段ボールに書かれた日本語が逆に「クールだ!」と好評だったりするんですよ。
── 菜緒さんの協力がなければレトロゲーム販売はできなかったんですねぇ。
コスキマーさん:
そうだね、だから彼女のリフレッシュも兼ねて昨日まで沖縄に行ってきたんですよ。ヤフーで貯めたポイントを使って。
ポイント5倍デイで節約
── 貯めたポイントで。詳しく教えてもらえますか?
菜緒さん:
私たちは日用品をYahoo!ショッピングで買うようにしています。Yahoo!ショッピングは5の付く日(5日、15日、25日)はポイントが5倍になるので、その日にまとめて注文するようにしていて。
コスキマーさん:
あと、海外のお客さんから「日本のものを送ってほしい」と頼まれたりするときもあるのですが、そういう依頼品もYahoo!ショッピングを利用して、ポイントをたくさん貯めているんですね。
── ポイントを貯めるサービスをヤフーに集約して、さらにポイント5倍デーをうまく使って貯めているんですね。
菜緒さん:
それで貯めたポイントで旅費を出したので、ポイント以外の費用は2万円位で済んだんじゃないかな〜。
── 沖縄旅行でそれは安いですね!
コスキマーさん:
こういうやり方も一種のエコだと思うんですよね。
レトロゲームの販売を通じて伝えたいこと
── コスキマーさんは「今、レトロゲーム販売は趣味でやっている」と言っていましたが、趣味だとしても続けていますよね。そこまで続けて伝えたいことが何かあるのでしょうか。
コスキマーさん:
うーん、それは僕が「ゲームはおもちゃじゃない、文化だ」って思っているからですね。僕はゲームに限らず本当にレトロなものが好きなんだけど、これは文化だと思うんですね。
日本だと、古くて歴史あるものは文化として残そうとしている。だけど15年位前のものってそんなに古いものじゃないから、すぐ捨ててしまう人が多い。
でも「文化」だから。捨てないで、残すことをやめないでほしいって思うんです。それを伝えたい。
単に修理するのが好きだから、というのもあるんですけどね(笑)。
インタビュー後記
僕自身お話をうかがって、古くて歴史のあるものには敏感だけど、ゲーム文化のようにまだまだ歴史が深いとは言えないものに対しては、「文化を残していく」という意識が低いと感じた今回の取材。
たとえば、古民家や銭湯のように「古き良き日本文化」として一般に認識されているものはもしかしたら、今後、保存していく流れも強まっていくのかもしれません。
ただ、そんな中で10年から15年くらい前のレトロゲームのような文化はどうなるのか? もしかしたら消えてしまうかも?
そうやって考えると、コスキマーさんご夫妻の想いは、日本文化やゲームカルチャーにとって、とても大切なものなんじゃないかと感じました。
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