なにかを実現するために、まとまったお金が必要。そうなったとき、どんな方法でお金を集めよう?
ビーチスポーツ・フレスコボールの日本代表選手である長田涼さんは、毎年ブラジルで開催される世界大会に、「自費」と「身近な人たちからの支援金」で出場しています。
お仕事は“コミュニティフリーランス”という肩書きで、コミュニティの運営やサポートをしている長田さん。「もしもこれから30万円をポンっと出せるくらい稼いでも、なんらかの形でお金を集め、世界大会に行きたい」と言います。
お話を伺っていくと、長田さんは「お金をもらう」という形から、純粋な「応援」を受け取って、それを自身の力に変えていることがわかりました。
長田涼さんインタビュー
インタビューした日:2020年1月15日(水)
競争じゃなくて共創するスポーツ、フレスコボール
── フレスコボールって、どんな競技なんでしょう。
長田涼(以下、長田):
フレスコボールは、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ発祥のビーチスポーツ。僕は、「ブラジル版羽子板」と呼んでいたこともあります。
ルールは簡単。ふたり組みでラケットを使って、テニスボールよりも少し小さいボールを、ノーバウンドで打ち合います。
おもしろいのは、その打ち合っているふたりは仲間だってこと。
フレスコボールはパフォーマンスを評価し合うスポーツなので、打ち返すことで加点され、ボールを落とすと減点されるんです。制限時間は5分間で、時間内に何点稼げるかを競います。
── 長田さんがフレスコボールを知った経緯を教えてください。
長田:
2014年にスポーツイベントを事業とする会社に転職したんです。
おなじタイミングで、学生の頃から知り合いだったスポーツ業界で働く方が、スポーツ業界に携わる若い人たちの交流会をしていて。それに参加したところ、当時の日本フレスコボール協会の事務局長を務めていた方と出会いました。
そこで初めて、フレスコボールという競技を知りました。話を聞いたら、まだ日本ではほとんど認知されていないし、すごく新しい価値観を持ったスポーツだなと感じて。
自分がスポーツのイベント会社にいたこともあり、「一緒にフレスコボールを広めていきましょう」という流れに。なのではじめはプレーヤーではなく、運営側に携わっていたんです。
── フレスコボールから感じ取った、新しい価値観とは?
長田:
思いやり、ですかね。
スポーツって、多くは相手を倒す競技なんですけど。フレスコボールは、相手を倒すのではなく、ペアの人と打ち合うことで一緒にポイントを重ねていく競技。
だから仲の悪いふたりだと絶対にラリーが続かないし、相手のいるところや取りやすいところに打ち返さないと意味がない。
それはもう“競争”ではなく、ともに作り上げていく、“共創”のスポーツだと思いました。フレスコボールに出会って、それまで自分が思うスポーツとは全く違う特性を持っているなと感じたんです。
── それまでは、相手を倒すことがスポーツの醍醐味だと思っていた。
長田:
そうですね。僕は、高校生までテニス漬けの毎日を送っていて、高校時代はインターハイで優勝するようなチームでテニスをやっていたのですけど。
── すごい。
長田:
けれども強豪校という理由で、勝利を強要される環境でもありました。プレッシャーも大きく、好きではじめたテニスを、楽しくないと思うこともしばしばあって。
そこから数年後フレスコボールに出会い、「勝つこともスポーツの特性としてだいじなんだけど、ふたりが楽しく、かつ相手を思いやっていることも素敵な考え方だ」と思ったんです。
会話がなくても、密なコミュニケーションが生まれる
── お話を聞いていると、どんどんフレスコボールをやってみたくなります。
長田:
誰でも気軽な気持ちではじめられますよ。細かい制限がフレスコボールにはないので。
飲酒しちゃいけないとか、奇抜なファッションはいけないとか、多くのスポーツではそれぞれ、禁止されていることがたくさんあるんですけど。
フレスコボールは、オールオッケーな雰囲気なんです。飲酒しながらできるし、ファッションも自由、音楽が流れていたりもします。スポーツとしての楽しみ方の幅がとても広いのも、フレスコボールの魅力です。
── 長田さんが、運営側からプレーヤーになったのはどんな経緯からですか?
長田:
「選手の気持ちがわからないとフレスコボールを広めていくことも限界があるんじゃないか」と思うようになり、プレーヤーに転向したんです。
テニスもやっていたので、フレスコボールの動きを「ボレーみたいだな!」と自分の中でうまく変換できて。プレーヤーになることに対して、気持ちの面でそんなに障壁はなかったですね。
選手になったと年に、日本の大会で準優勝ができて。その年に国際大会にも出場しました。
── やっぱりもともと運動能力が高かったというのもあるんじゃないかな、と。
長田:
それはあまり関係ないかも。
フレスコボールは、車椅子の人でもプレーできる競技なんですけど、車椅子の人がいるペアが健常者のペアに勝ったりもするので。
男女のペアもあるし、誰でも平等に上手になれるし、勝つチャンスがある。
僕にしっかりフレスコボールを教えてくれたのも、じつは車椅子の方でした。
イタリアの国際大会に出場していたブラジル人の方で、今でもブラジルで行われる国際大会に出場する際には、その人に会っています。
── 選手になって新しく知ったフレスコボールの魅力があったんですね。
長田:
選手になってからは、競技そのものの魅力に惹かれていきました。
スポーツならではのコミュニケーションの形にも気づけたりもして。
── スポーツならではのコミュニケーション。
長田:
どんなスポーツもそうかもしれないけど、フレスコボールも、打ち合っている間はペア同士の会話なんてないんです。でも相手がミスをしないように、打ちやすいように、とひたすら相手のことを考えている。
── 会話をせずとも相手のことを考えて、かつそれが相手に伝わる。そんなコミュニケーションがある。
長田:
今ってインターネット時代だからコミュニケーションもネットからリアルへが主流だけど、スポーツのコミュニケーションって逆なんですよね。
まず会わないと始まらないじゃないですか。会って、ちょっと走り回ったりしているうちに自然と友だちみたいになって、解散した後にネットでコミュニケーションを取って。
結局一緒に何か体を動かしたときに信頼とか、共感とか生まれるものだと思うけど、そもそも会って体を動かすことが起点になっているスポーツって、すごいなぁと思ったりもしました。
「完全自費」から「polcaで集めた資金」で世界大会へ
── 長田さんは、毎年世界大会に出場されているんですか?
長田:
はじめて世界大会に出場した2016年からは、毎年出場しています。
一番最初に参加したのはイタリア開催の世界大会だったけど、それ以降はブラジル開催の世界大会に出場しています。
── その世界大会に一部「自費で」出場されていると伺っているのですが。
長田:
そうですね、業界的にそんなに潤っているわけじゃないというのもあって、初年度から毎年30万円ほど払って、世界大会開催に合わせて海外に滞在しています。
滞在日数はだいたい1週間くらい。現地に到着してから3日ほど練習して、2、3日は大会で試合をして、最終日は観光して帰る、というスケジュールです。
── お金は貯金したものですか?
長田:
2016年と2017年はそうですね。2018年と2019年の大会は一部自費で、残りは「polca(ポルカ)」というフレンドファンディングサービスを使って、15万円ほど資金を集めました。
(※polcaは身近な友人や知人、TwitterなどのSNSのつながりのなかでお金を集めることができるアプリ。2020年10月1日に終了)
僕自身、もともとpolcaを使って応援したい人を支援したことがあって、「気持ちのいいお金の使い方だな」と思っていました。また、「スポーツの応援をpolcaでできたらおもしろいんじゃないか」という仮説もあり、「自分自身が実験的にやってみよう!」と踏み込んだんです。
── 実際に支援してくれた人は、どんな人たちでしたか?
長田:
スポーツ関係者の方よりも、僕の本業であるコミュニティづくりの関係者の方々が支援してくれました。
Twitterでもちょくちょくフレスコボールのことを呟いていたり、フォロワーも増えてきた時期だったので、それも相まってという感じです。タイミングが良かったのかな。
支援してもらったお金だからこそ、使い道が有意義なものになる
── 毎年30万円お金がかかるということで、大会に出るか悩んだことはありますか?
長田:
全然あります(笑)。
polcaでお金を集めて、でも集まらなかったら最悪、親にお願いすることになるかもしれないし・・・それってけっこう精神的に負担だなって。
それと僕、貯金にルーズなんですよ。フレスコボールは、1年のシーズン中で国内での戦績がだんだん見えてきて、「今年は世界大会に行けそうか、行けなさそうか」わかるんですけど。貯金が苦手だから、追いつかない。
それでもおなじ代表選手で「行こう!」と誘ってくれる人がいたり、やっぱり「フレスコボールの価値を伝えたい」という想いが勝って、毎年出場しています。
── 悩んで足を運んでいる分、現地では充実した時間を過ごしているんじゃないかと。
長田:
そうですね。僕は、旅行に30万円払いたいとは思わないタイプなんです。だから僕にとっての充実って旅行体験じゃないし、観光は最終日まで一切しない。
やっぱり30万円払っていい加減な体験したくないじゃないですか。やるなら勝ちたいし、いい思いしたい。自分でお金を出すことによって、本当にしたい体験に貪欲になれるというか、腹を括れるんです。
なので現地では、もう1週間ひたすらフレスコボールと向き合って、現地のブラジル人と打ち合って、スポーツを通して現地の人と交流する。それでやっと、「30万円分の価値があった」と思えています。
── 先ほど、「スポーツの応援をpolcaでできたら面白いんじゃないか、という仮説があった」とお話ししてくれました。支援してもらって、自分の貯金だけで出場していた頃とは何か変化はありましたか?
長田:
モチベーションの部分が変わりましたね。
たしかに受け取っているのはお金なんだけど、「応援を受け取っているんだ」って心から思えるんです。だから余計に、「頑張ろう!」と思えるようになった。それは資金を集めてみて気づいたことでした。
モチベーションの話でいうと、今まで自分は「闘争心がない人間だ」って思っていたんですけど。
── 闘争心も湧き上がってきた。
長田:
昨年の12月に世界大会で負けたときは、すごく悔しかったです。
自分のプレーには自信があったし、それに見合うプレーもできた自覚があったので、余計に。おなじ日本人選手が入賞したんですけど、心の中は「なんで俺ら負けたんだよ」ばっかりで(笑)。そのくらい悔しかった。
でもふり返ると、僕は学生時代も社会人になってからも、悔しいって思ったことは全然なかったんです。上司に「ハングリー精神はないのか!」とドヤされても「ないですね」と思っちゃうタイプだった。
── どうして変わったんだろう。
長田:
コミュニティの仲間に言われたのでしっくりきたのは、「背負うものが増えたから」ということ。今は、polcaで応援してくれる人、協賛してくれる人、ロゴを作ってくれる人、いろんな人からいろんな形で応援してもらっていて。
それがすごくうれしいし、ありがたいと思う分、負けて不甲斐なさを感じたんだと思います。「あんなに応援してもらったのに、なんで」って。
でも不思議と、プレッシャーではないんです。僕、義務感ってすごく苦手なんですけど、それは感じていない。自然と「勝ちたい、勝とう!」と思える。
── 支援してもらうことが、すごく長田さんの力になっている。
長田:
本当にそう思います。
なのでもしも、これから僕が30万円をポンっと出せるくらい稼いでも、なんらかの形でお金を集め、そのお金で世界大会に行きたいです。
2020年も世界大会に出場して、次こそ優勝したいです。
インタビューした感想
まとまったお金を集め、「夢のスタートラインに立った」とき。そこから歩みを進めるのは他の誰でもない、自分自身です。
だからこそ、自分のモチベーションを維持し続けたい。
それは、長田さんのようなスポーツ選手だけではなく、誰にでも当てはまることだと思います。
モチベーションを維持するのって、屈強な精神力なだけじゃない。
今回、長田さんにインタビューをしてそう思いました。
スタートラインに立つまでのお金の集め方、周りの人たちとの関わり方からも、未来の頑張る自分を作れるのだろう、と。