東京都北区岩淵にある、コワーキング&シェアキッチンの「co-toiro(コトイロ)」。その運営をされているのが、今回お話をうかがった織戸龍也(おりとたつや)さん。
コトイロは織戸さんが設計も手がけたスペース。岩淵の街並みに映える黒のシックな外観が特徴で、1階がシェアキッチン、2階がコワーキングスペースとなっています。
コトイロの運営だけでなく、株式会社岩淵家守舎の代表として岩淵のまちづくり活動など、実に多岐に渡って活動されている織戸さん。
そんな織戸さんが大切にしていることは、「顔の見える関係性」。そう思うようになった背景には、以前住んでいた「ロイヤルアネックス」でのシェアハウス経験があったと言います。
今回は、織戸さんが考えている岩淵のまちづくりの構想や理想とする暮らしについて、お聞きしました。
織戸龍也さんインタビュー
インタビュー日:2018年3月7日(水)
コトイロができるまでのストーリー
── 織戸さんがまちづくりに関わるきっかけはなんだったのでしょうか。
織戸:
2016年の春に東京で開かれた「リノベーションスクール@都電・東京」にたまたま参加したことがきっかけでした。
リノベーションスクールは参加メンバーでリノベーション案件について事業の案を出し合うものなのですが、そのときのひとつがここ岩淵で。
「リノベーションをしてほしい」という案件を出したこの土地のオーナーさんの話を聞き、街の文化を知っていく中で岩淵に興味を持ちました。
そして、そのとき参加していたメンバーと一緒に「会社をやろう」と話が進み、コトイロを始めることになったんです。
住宅もある、「まちのシェア拠点」としてのコトイロ
── コトイロは、どういう場所なんでしょうか。
織戸:
コトイロは、シェアキッチンとコワーキングを併設している、まちのシェア拠点です。
コトイロというのは、「事(コト)」を生み出す街のシェア拠点としての「コト」と、十人十色の「トイロ」とをかけ合わせて「コトイロ」という名前になりました。
普段は一般の方はもちろん、コトイロの家の住人さんたちも利用できるようになっています。
── コトイロの家の住人さんたち?
織戸:
ここ(コトイロ)のすぐ裏に、「コトイロの家」という住宅があるんです。すぐ近くの通りに面している建物が、1階が店舗、2階がふつうの住宅の「店舗併用住宅」となっていて。僕も現在、家族とそこに住んでます。
織戸:
岩淵はすぐ隣の赤羽と比べたら、正直なにもない街で。飲食店も小さな中華料理店が一軒あるのみです。
空き家をリノベーションすると同時に、そこに必要な人材を生み出していこうということで、改装した棟への店舗と住民の誘致もはじめました。
現在はコーヒーショップに入ってもらっていて、今度また別のお店も入る予定です。
他にも、地域の人も空間づくりに参加できるワークショップや、コトイロのちょうど目の前にある私道を使ったイベントなども開催しています。
今年からは定期的に「宿場町まるしぇ」というマルシェイベントも実施していきます。
「顔の見える関係性」が大事だと気づいた、ロイヤルアネックスに住んでいたときのこと
── 織戸さんがまちづくりをしていく上で大切にしていることってなんですか?
織戸:
僕自身が今大切にしていることは、「人の顔の見える関係性を大事につないでいく」ということです。
そう考えるようになったきっかけは、ロイヤルアネックスというマンションのシェアハウスに、以前住んでいたときです。
ロイヤルアネックスは、予約待ちが200人もいるほど当時話題になっていたマンションだったんですけど。そこを手がけられていた青木純さん*1という方が、「人の関係性を大事にする」ということを話されていて。
(*1まめくらし代表・青木純さんインタビュー、“当事者”が増えれば、住人コミュニティには笑顔があふれる。必要なのは「信じること」だけ)
そこは借り手が作り手になる「オーダーメイド賃貸」と呼ばれる住宅だったので、僕の家もずっとDIYをしていました。
そうしていると、僕が当時建築事務所に勤めていることを知っている同じマンションの人が、「家具をつくりたい!」「寒いから、改装したいんだけど・・・」と相談に来てくれるんですね。
ある日、自分がセルフリノベーションして「工事が2ヶ月くらいかかる」となったときに、下の階の人が「明日も工事するなら泊まっていけば?」と言って、泊めさせてくれたんです。
そんなふうに暮らしながら、人の顔の見える関係性の中で生活することを通して、顔の見える関係性ってすごくいいなと思うようになりました。
── その思いは、コトイロにどんなふうに活かされているんでしょうか。
織戸:
ロイヤルアネックスは、マンションの中ですべてが完結している場所でしたが、コトイロはもっと岩淵の街を、平面に広がりのあるように展開していきたいと考えています。
たとえば住居が点在していても、このコトイロを近くのお店の人やコトイロの家の人が一緒に交流の場所や仕事の場所、食事の場所としてシェアして使うことができます。
そうするとお店同士で人の交流が生まれて、人の顔が見えるようになって、関係性がつながってきますよね。そんなふうに、コトイロが「まちをシェアして使う」ことの拠点になればいいなと想像しています。
忙しい中、短期間にまとめてアルバイトをしていた学生時代
── 小さいときからすでに、設計士や建築家になろうという夢はあったのでしょうか。
織戸:
ありました。中学の時点ではもう半分くらい建築家になることは決めていて。小学校のころからものづくりが好きで、卒業アルバムにも「建築家」って書いてあるくらいです。
── 初めて自分の力でお金を稼いだのは高校生のときですか?
織戸:
そうですね、高校生のときにアルバイトをしたのが初めてです。普段は部活動が忙しかったので、冬休みなど長期の休みのときに、郵便配達などをしていました。
月並みですが、お金を稼ぐことはとても大変だなと思いましたね。そうすると、普段は気兼ねなくできていた部活後のコンビニでの買い食いも「どうしようかな」と買うときに悩むようになったんです。
ただ、食べることは昔から大好きなので、結局買ってしまうことが多かったんですけど(笑)。
そのあと大学は美大に通ったのですが、お金は基本、あまりなかったです。
アルバイトは引越しや宅急便の仕事など、短期でガツっと稼ぐタイプでした。学校に行っている期間はバイトはせずに、基本的に制作に打ち込むために奨学金を切り崩して、作品づくりに没頭していました。
お金の使い道としては作品代がメインで、あとは友人との飲み代。そう考えると、今までの人生で一番お金を使っていることは「食べること」「飲むこと」かもしれません(笑)。
家族のような関係性をもった街に住みたい
── 織戸さんがまちづくりをしていく中で、一番うれしいことってなんでしょう。
織戸:
住むところを選ぶときに、みんな物件で選ぶじゃないですか。そうではなくて、一度、来て、その街のことを好きになってから住むような街をつくりたいなと思っています。
つい先日、岡山県からきた方が、コトイロの家を見学しに来てくれたんです。そのときに、たまたま時間のあったふたりの住人さんがいて。
そのおふたりが、岡山県からきたその方と一緒に話をしているうちに「じゃあ、今から物件探しにいこう!」となって、すぐに地域の不動産屋さんに行くことになったんです。
「じゃあその日のうちに見れる物件はどこだろう?」と調べたり、電話をしたり動いて。後日も熱心に、岩淵に住む人が外からきた人のサポートをしてくれたんです。そんなふうに初めて会った人同士なのに、協力体制ができたのはすごくうれしくて。
住人同士の人の関係性があるからこそ、「この人が来たらおもしろいな」「一緒にご飯食べられたらいいな」と、地域の新しい住人が増えたらなあという思いで、みなさん協力してくれたんだと思います。
岩淵では今後、そういうことができたらなと思っています。
── そんなふうにまちづくりのことを考え続けている織戸さんご自身の理想の暮らしとは、なんですか?
織戸:
家族のような関係性をもった街に住みたい、と思っています。フラッと会った人たち同士で自然と会話が生まれたり、一緒にご飯を食べたりするコミュニケーションが、自然とできる街をつくりたいです。
物件を壊して新しくすることだけが、まちづくりやリノベーションではありません。また、コトイロを拠点としたまちづくりによって、人と人がつながっていくといいなと思ってます。
自分が拠点となって、街にきた人が僕や岩淵に住む人に会いにくると、どんどんいろんな人がつながっていく。
そんな家族にも近い関係性のある街に住みたい、暮らしたい思いがあるからこそ、自分は岩淵でまちづくりをしていこうって考えています。
【編集後記】インタビューした感想
岩淵という街をまるでひとつの家のように、“ホーム”を感じられるまちづくりをされている織戸さん。
繰り返し語られていた「顔の見える関係性が大切」という言葉は、ご近所づきあいが希薄になりがちな今の時代だからこそ、響くものがありました。
コトイロでお話をしながら思ったのは、自分の住む街にもみんなが気軽に集まれる場所があるといいな、ということ。何か困ったときに頼れる人や、一緒に暮らしを楽しめる人が近くに住んでいたら、楽しく生きていけそうですよね。
そんなふうに、「どんな家に住もうか?」ではなく「どんな人のいる地域に住もうか?」と、人との関係性から暮らし方を考えると、住まいを選ぶ基準は変わってきそうです。
織戸さんの考え方は「まちづくり」という枠を越えて、暮らしを考える人に参考になる話だなと思いました。