クリエイター・エージェンシーコルクを独立されて数ヶ月の佐伯ポインティ(@boogie_go)さん。
現在は「エロデューサー」という肩書きでお仕事をされています。
性愛にまつわるコンテンツをつくる活動をする佐伯さんは、エロデューサーという独特な肩書きを持ってからは、「面白いひとにたくさん会えて嬉しい」と語ってくれました。
面白そうな方と堅実な方、人生にとってどちらが正解とは一概には言えないのだと思うけれど。佐伯さんのお話には、面白いことを選びたいけれど戸惑っている人に届けたい言葉がたくさんありました。
佐伯ポインティさんインタビュー
インタビュー日:2017年12月18日
エロデューサーとしての活動と金銭面の工夫
── まずは自己紹介をお願いします。
佐伯ポインティ(以下、佐伯):
1993年、東京生まれの24歳です。
幼稚園の年長から小学校4年生頃までは海外にいました。
中高は日本で過ごし、早稲田大学を卒業後にインターン先の会社だったコルクに新卒入社、今年の秋に独立して、今は自分で「エロデューサー」と名乗って活動しています。
── 現在はエロデューサーという肩書きを持つ佐伯さんですが、具体的にどのような活動をされているのでしょう?
佐伯:
今は、Twitterアカウント運用のコンサルと「猥談バー」というイベントを開催しています。
── Twitterアカウントをコンサルする仕事があることを初めて知りました。
佐伯:
僕がコルクにいたとき、はじめはフォワーが1000人いないくらいだったんです。
だけどちょくちょくツイートがバーっとリツイートされていくうちにフォロワーが増えていきました。
それで、漫画アプリ「マンガトリガー」を運営している株式会社ナンバーナインの代表の方が「周りにそういう人がいないから教えてくれませんか」とお声がけをしてくれて。
それで今は、週1でマンガトリガーの社員さんのアカウントが、ネット上で「漫画のセレクトショップ店員」というイメージになるような、アカウントのコンサルをしています。
── コルクでコミュニティプロデューサーをしていた佐伯さんだからこそできることだなぁと思いました。もうひとつお話にあった、猥談バーはどんなイベントなのでしょう?
佐伯:
猥談バーは、猥談にポジティブな人なら誰でも楽しく猥談できる、バーでのイベントです。
どうして猥談バーを始めたのかというと、単純に僕が他人の至極個人的な猥談を聞きたかったから(笑)。
いろんな人がTwitterの告知を見て来てくれて、イベントが1回目も2回目も満員御礼となり、性の話をしたい人はじつはたくさんいるんだなぁと改めて思いましたね。
── 猥談バー、私もぜひ行ってみたいです。今、週1でコンサル、月1でイベント運営をされているとお聞きして、独立されてからはあんまりガチガチにお仕事を詰めていない印象を受けました。フリーになった途端忙殺されている人も珍しくないと思います。
佐伯:
忙殺されるのはお金の面も関係していると思うんです。
僕は、実家が都内にあるので独立してから実家に帰って生活しています。
そうすると、出費は交通費と交際費と電話代、それとコンテンツ代くらいに抑えられる。
── たしかに、まずはお金の面で精神的負担を減らすのはフリーランスにとって大切かもしれません。
佐伯:
実家に帰る選択になったのは、僕が急に独立を思い立って貯金があんまりなかったというのもあるんですけど(笑)。
── コンサルとイベント運営以外の時間は、どんなことをされているのですか?
佐伯:
ほぼ毎日、人と会っていますね。人と話すのが大好きなので、仕事の打ち合わせとか今後一緒になにかを始めたい人とか、あとは単純に僕に興味を持ってくれた人に会っています。
── それは「エロ」に関連する話をしているのですか?
佐伯:
ほぼ100%そうですね。「エロデューサー」という肩書きを持ってよかったのは、僕にわざわざ会いたいと言ってくれる人のほとんどがエロに関心のある人か僕のことを好きって思ってくれている人に絞られていること。人生に置いてエロスの優先順位が高い人が来てくれるんです。
コンテンツ好きになった理由
── 佐伯さんのエロに関する入り口はどこからだったのかお聞きしたいので、子どもの頃から遡ってお話を聞いていきたいです。
佐伯:
子どもの頃というか今もなんですけど、常に面白いか面白くないかの価値判断で行動していますね。幼少期は今よりもっと衝動性が強くて、親にはよく怒られたり心配されたりしていました。
海外にいたとき、女の子の友だちが男の子にいじめられていたんです。
僕はなんとか励ましたくてその女の子の前で「脱いだ」んですよ。
── 脱いだ・・・?
佐伯:
クレヨンしんちゃんのマネをしたら面白いだろうなって思って(笑)。
そのときは女友だちはすごく笑ってくれたんですけど、親には「死んでもやるな」って怒られました、懐かしいです。
僕は後にコルクに入社するわけですけど、そういえば僕が漫画や映画などといったコンテンツ好きになったのは、海外にいたのが影響しているなぁと思います。
── 海外にいた頃、なにか漫画やアニメに心惹かれる経験があったのでしょうか?
佐伯:
オランダに2年、イギリスに2年いたのですけど、子どもの僕には海外って娯楽が少ないように感じたんですね。
自宅から友だちの家まで離れていたから遊びに行くのもバスに乗らないと行けなかったし、漫画や小説やゲームは暇を紛らわすのにちょうどよかったんです。
── 物理的な環境がコンテンツにハマっていった理由だったんですね。
佐伯:
あとは、オランダにいた頃ブリティッシュスクールに通っていたとき、アジア人を理由にいじめられていたんです。
お弁当をトイレに捨てられたりとかゲイの子にトイレに連れ込まれたりとか。
だけど、そのとき「ポケモン」が僕の立場を救ってくれたのも覚えています。
── ポケモンですか、海外でも人気ですよね。
佐伯:
その頃、日本でポケモンの「金・銀」が出て盛り上がっていた時代で、僕のおばあちゃんが日本からソフトを送ってくれたんです。
でも、海外はそれがちょっと遅れて入ってくるわけじゃないですか。
だからクラスで「こいつ新作のポケモン持ってるぞ!」と話題になり、僕は一躍VIPに。
お金持ちの家の子どもが自分の持っているソフトを10個も積んで来て「これと交換しようぜ、電池もつけてやるから」って言ってくるんですけど、僕は「見せてやるけど新作のポケモンはあげないよ」ってやりとりがあったりして。
── すごい!一気に立場逆転ですね!(笑)
細分化された感情の乗ったエロは面白い
── 子どもの頃は、性に関してはどんな意識を持っていましたか?
佐伯:
好奇心だけがありましたね。
子どもにとって性って遠ざけられているじゃないですか。
でも僕はそれがなんなのかすごく気になっていました。
レンタルビデオ屋のR18コーナーとか興味津々でしたね。
── お小遣いでそういう漫画や本を買ったりもしていましたか?
佐伯:
そうですね。覚えているのが、中学の頃に学食があったのでお昼代をもらっていたんです。
それを学食では全部素うどんにして浮いたお金をお小遣いにし、塾の帰り道にある本屋でエロ漫画を買うのに使っていました。
それと、「カリビアンコム」っていうアダルトサイトがあるんですけど。
中学生の頃それを見ていたら、架空請求メールが来るようになっちゃって。
サンプルしか見ていなかったのに47万円の架空請求が来て焦った僕は、「そんなに見ていないので減額してください」ってメールを返信したんですよ。
そうしたらもう1日に何通もメールが来るようになっちゃって、家族共用のPCだったので結局両親にもバレました。
高校生になって口喧嘩したときも「でもあんた、カリビアンコムとか見てるから」と挟まれて、僕はなにも言えなくなったり。
── 中学生らしい可愛いエピソードですね。
佐伯:
だけど僕、AVの世界にはハマれなかったんですよね。
ずっとコンテンツを追いかけて、コルクでクリエイターさんと関わって思ったのは、クリエイターは「作品を通して感情をプレゼントする人」なのだということ。
R18カルチャーのエロって、「これで抜け!」みたいなのばかりで、少し大味だと思うんです。
お腹空いているときの選択肢がラーメンとケーキしかない、みたいな。
それに対してメインカルチャーのエロはやっぱり面白いなと思って。
たとえば、映画の『モテキ』や『愛の渦』や『ニンフォマニアック』、小説の『痴人の愛』や『日本のセックス』には、「エロ面白い」「エロ切ない」「エロ怖い」みたいな、感情が細分化されたエロスがある。
── これまで、佐伯さん自身がエロのあるコンテンツをつくろうという方向には向かなかったのでしょうか?
佐伯:
高校2年生の頃、受験勉強をやりたくなさすぎて小説の賞に応募したんです。
それまではぼんやりと小説家になりたいな、と思っていて。
これで賞をとったら受験やめて大学行かずに小説家になろう!と思ってました。
今考えると受験やめたいって気持ちがめっちゃ大きいですね。
でも結果は、見事に賞に引っかからなくて。
大学時代も映画撮影をしてみたのですが上手くいかず。
それで自分がクリエイティブを創るのは諦めましたね。
だから編集者を目指したし、今もエロスをプロデュースする、「エロデューサー」という肩書きにしたんです。
根源的な欲求を実現させるため、消費じゃないことにお金をつかいたい
── 独立して数ヶ月の佐伯さんですが、今後どのような活動をしていきたいと思っていますか?佐伯さんが退職エントリで書かれていた「男女でハッピーにエロを楽しめるカルチャーをつくりたい」という言葉がとても気になっているのですが・・・。
佐伯:
今企画を進めているのが、「猥談タウン回覧板」というコミュニティのような有料メルマガを配信しようというもの。
それと、ヌード写真家さんのミニ展示会を計画しています。
あとは、もう少し先の話になりますが「男女楽しめるエロスのあるコンテンツをつくる会社」をつくりたいです。
なんでこんなことをやりたいのかというと、それはまさに男女でハッピーにエロを楽しめるカルチャーをつくるためなんですけど。なんかエロい話って重くないですか?
── たしかに、Twitterとかにはなかなか書けないですよね。
佐伯:
そうなんです。
現実でもポップにできないですよね。
だけど、もうちょっと老若男女楽しめるものになったら面白いと僕は思っていて。
性癖って、十人十色で当たり前なんです。
たとえば、セーラームーンを見て苦しそうな女の子に興奮してSっぽくなったとか、欲求不満な女の子同士が偶然出会って関係を持ち始めたことがきっかけでバイセクシャルになったとか。そんなことは、僕にも小山内さんも起こり得る。
── たしかに性癖ってあんまり人には言えないって意識があるけれど、みんな持ってるんだろうなと思います。
佐伯:
性癖って、きっと人生を集積した個性。
2次元しか愛せないから分かり合えないとか、死ぬほどSM好きだから分かり合えないとか、そんなのは悲しい。どんな性癖の人でも、共感はできなくても、理解はできると思うんです。
── 佐伯さんのエロデューサーとしての活動は、そういった性にオープンじゃない社会によって苦しんでいる人を救ってあげられるんじゃないかなという気持ちになりました。
佐伯:
それは結果的にそうなってくれれば嬉しいけれど、僕の活動の源泉はもっとシンプルですよ。
ただ僕が人のエロい話や、エロスのあるコンテンツが面白いから好きで、それをたくさん聞いたり、体験したりしたいっていうだけです。
エロをもっとポップにできれば、みんなが自分の性の話を話しやすい世の中になって、僕が楽しい話をたくさん聞けるようになる。
猥談バーはまさに、そういう自分の欲求を実現したイベントだったんですけど、イベントは満席御礼で来てくれた参加者さんは「こんな場所欲しかった」とか「普段あんまり猥談できないから嬉しい」などと嬉しい感想を伝えてくれました。
── みんな普段言わないけれど、生活に密接している性の話をきっともっとしたいんですよね。
佐伯:
だから僕は、究極的に利己的になることは、利他に繋がるんじゃないかって思っています。
自分が楽しいことと、他人も楽しい可能性があることが一致していたら、どんどん利己的になっていいんじゃないかなぁと。
── 自分も幸せにできない人は他人も幸せにできない、というような話は聞いたことがありますが、まさにそれだなぁと。佐伯さんは、男女でハッピーにエロを楽しめるカルチャーをつくるためにこれからどんなふうにお金をつかっていきたいですか?
佐伯:
面白いことにお金を使っていきたいですね。
面白い人と会うとか、自分の企画を豪華にするためにとか、すごくエロみのある文章を書けるライターさんにお願いするとか。
僕、物欲があんまりないんですよ。
大学生の頃、ずっとヴィレバンで豪遊したいと思っていたのに、いざ3万円の商品券があたったときに1万円しか使えなくて。そんなに欲しい物ないんだなって思いました。
── 漫画や小説や映画が好きな大学時代の佐伯さんが、ヴィレバンで豪遊できなかったのは意外です。
佐伯:
自分のお金を増やすモチベーションもすごく低くて、稼いだお金も結局、人とご飯食べたりとかに使っちゃう。だったら、僕のところでワンバウンドさせないで、エロデュースする企画とか会社とかをもっと面白くするために使っていけば、結果的に自分の欲求は満たされるんじゃないかと思っています。
インタビューした感想
これまで、「自分も幸せにできない人は他人も幸せにできない」というような言葉を何度か耳にしたことはありました。
そして、今回佐伯さんのお話を聞くまで、正直私はその言葉の真意を疑っていました。
それは、私自身が利己的に生きた結果誰かを幸せにできたことがないという自覚からきた、単なる嫉妬だったのかもしれません。
自分の欲求に忠実に生きる佐伯さんの活動が、回り回っていろんな人をハッピーにしたお話を聞いた今、利己が利他に繋がるというのは真実であるのだと思います。
「利己的な人」というとなんだか心ない人のようなイメージも根強いですが、お金持ちになりたいとか、女の子にモテたいとか、出世したいとか人間の欲求ははるか昔からつきません。
佐伯さんのように利己の先に利他があること、あるいは他人に害のない状態が見えているなら、迷わず利己的になったっていいのかもしれないと、今回の取材を通して思いました。